大道芸人・ギリヤーク尼ヶ崎に魅せられた表現者たち(後編)
ニューヨーク渡航時に近藤さんから渡航費のカンパを受けたことを、ギリヤークは忘れていない。近藤さんの方は「グラウンド・ゼロで、その場で踊らなければいけないって言うんだ。踊りたい、じゃなくてね」と回想する。 近藤さんはギリヤークを、冷静に見ながら、ごく深くまで受け入れる。 「人が不幸になったところに行って、踊りたいんだよ。本来踊りって、そういうもんなんだ。神とともにあるので。鎮魂なんです」
「果たし合い」を果たしたい
50周年を前に、ギリヤークから近藤さんに伝えたいことが一つあった。かつて、近藤さんの自宅に招かれた時のこと。「僕、いの一番にこれが目に入って、踊りを振り付けるから貸してほしいって。」それからずっと借りていた刀のツバがあった。 近藤さんは「俺、昔のことはほぼ忘れてるから。あなたすごいね」と言いつつも、「これが目に入ったのか。しゃあないな。目に入れられたんだから」
ギリヤークはずっと、最後にもう一演目、このツバを使った踊りを作りたいと思い続けてきた。その胸の内を初めて明かした。演目名は決めている。一人称で相手役のないチャンバラの踊り。あの日の約束を果たしたい。 「いただいたツバでね。50周年に向けて “果たし合い”という踊りを作る」。パーキンソン病で震えるギリヤークの手の上でツバが震えている。 近藤さんはそんなギリヤークの肩を抱く。「できたらやって、むりしちゃだめだ♪」と歌うように言った。「果たせたら、果たし合い。果たせなければ、化かし合い」そう笑う近藤さんは、芸人ギリヤークを知り尽くす、友人としてそこにいた。
生きて生きて50芸年、大道芸人の宿命
話は尽きず、2時間近く続いた。別れ際、近藤さんはギリヤーク尼ヶ崎への言葉を手渡した。
自身も俳優歴50年を超える近藤正臣さんが言う「特異な存在」、87歳の黒田オサムさんが「拝みたくなる」、友部正人さんが「本当の大道芸人」、そして世にいう「最後の大道芸人」。これらの言葉への返歌のように、ギリヤークが語ったことがある。 「やっぱり明るい気持ちを持った方がいいね。生きていくのは、大変なことの方が多くて辛かったけど、その時その時に、生きていくのが楽しくなるように希望を持っていたんじゃないかな。暗い気持ちの時ほど、人に、人間だけでなく、生けとし生ける物に夢を与える。大道芸人はそういうとても大事な役目を宿命的に与えられている。それに選ばれたんだから」 「街頭で踊ってきて、いい人たちと巡り会えた」というギリヤーク。これからも生きて、踊って、街かどで巡り会う。
<公演情報> 2018年8月19日(日) 函館 50周年記念・米寿誕生日函館公演 2018年8月26日(日) 札幌 米寿50周年記念札幌公演 2018年10月8日(祝) 新宿 米寿50周年公演 時間など詳細はギリヤーク尼ヶ崎Facebookファンページに掲載 (紀あさ)