草笛光子×市村正規「歌と踊りと芝居を結婚させるのがミュージカル。その3つがちゃんとできる人とご一緒すると、何度も共演したような気がしちゃう」
歌と踊りと芝居と――。ミュージカルを愛し、数多くの作品に出演する草笛光子さんは、このすべてに熱心に取り組んできました。今回のゲストは、日本を代表するミュージカル俳優の市村正親さん。仲のいい2人の、よどみない掛け合いのなかに、互いへの敬意が滲み出ています(構成=篠藤ゆり 撮影=天日恵美子) 【写真】ミュージカルのワンシーンのようなポーズの2人 * * * * * * * ◆同じ血が流れているように感じる 草笛 こうして撮影していると、私たちって無意識にミュージカルのワンシーンのようなポーズをとってしまうわね。 市村 足も自然に上がっちゃう。(笑) 草笛 舞台をご一緒したのは、何回くらいかしら。 市村 たぶん3回じゃないかな。 草笛 え、それだけ?もっとなかった? 市村 いや、そう言われてもないのよ(笑)。がっぷり四つに組んだのは、4年前の『ドライビング・ミス・デイジー』だね。人種差別が厳然とあった時代のアメリカを舞台に、ユダヤ人未亡人と黒人運転手の交流を描いた物語。 歌も踊りもないシンプルなストレートプレイだったけど、僕のなかには常に音楽が流れてた。「あー、奥様」と台詞を言うときも、体のなかにリズムを持ってさ。 草笛 歌って踊って芝居する者同士、私もそのリズムが感じられたから心地よかったわ。あなたとは久しぶりに会っても、「こんにちは」と言ったとたんに通じ合うところがある。
市村 僕はね、草笛さんと《血》が同じだと思ってるの。 草笛 確かに、そうかもしれないわね。私は歌と踊りと芝居を結婚させるのがミュージカルだと思っているの。それをどんどん掘り下げていきたい。だからあなたみたいにその3つのことがちゃんとできる人と舞台をご一緒すると、1回だけでもうんと何度も共演したような気がしちゃう。 市村 でも実際は3回だけなのよ(笑)。最後に共演したのは、3年前の『ラヴ・レターズ』だったかな。幼馴染の男女の、50年にわたる手紙のやりとりを描くリーディングドラマ。 草笛 あれはよかった。あるところまできたら私、胸がいっぱいになって、自然と涙が出てきたのね。「ああ、この人、役者として本当にすばらしい」って思いました。 市村 あははは。言っていい?『ラヴ・レターズ』は誰がやってもじーんとなるの(笑)。だってホンが素晴らしい作品なんだから。 草笛 でもさ、あなたがいい役者であることは確かよ。 市村 ありがとう。嬉しいですよ。だって僕が草笛さんの舞台をはじめて観たのは20歳のときで、まだ役者になる前のことなんですから。 草笛 あら、なにを観た? 市村 『ラ・マンチャの男』。草笛さんの、あのアルドンザを観たときのショックは忘れられないね。 草笛 どんなだった?私。 市村 あばずれで、ひたむきで、健気で、悲しくって。そしてすごく色っぽい。 草笛 『ラ・マンチャの男』は私の女優人生の大きな転機になりましたね。ミュージカルはきれいな格好をして歌って踊るものと思っていたから、ニューヨークで観て度肝を抜かれて、なんとか日本上演にこぎ着けた。 当時、30代後半だったけれど、あの激しいアルドンザをやり通すために毎朝5時に起きて歩いて、体をつくって挑んだの。「今日死んでもいい」くらいの思いで、命を懸けてました。