レバノンの通信機爆発はどう仕組まれたのか
それらは別個に製造され、プラスチック爆弾などの原料となるPETN(四硝酸ペンタエリトリトール)が組み込まれた電池を内蔵していたという。 では、今回の通信機器爆発の具体的な手口はどのようになっていたのか。ポケベルはいったいどのように一連の爆発に備えて武装化されていたのか。 その前に、なぜヒズボラはポケベルというローテクの通信機器を使っていたのか。ポケベルは日本では1990年代半ばに最盛期を迎えた一世代前の代物だ。
ヒズボラの最高指導者であるハサン・ナスララ師は以前から、イスラエル軍、とくに秘密情報部隊の8200部隊がヒズボラメンバーの携帯電話の送信を傍受し、容易に使用者の位置を特定し、精密誘導兵器で殺害できることを理解していた。このため、ヒズボラは今春からポケベルの配布を開始していた。 これに拍車をかけたのが、2024年7月末のイスラエルによるヒズボラの軍事司令官フアド・シュクル氏の暗殺だ。イスラエル軍はレバノンの首都ベイルート南部を空爆し、シュクル氏を殺害した。
■ヒズボラが恐れた携帯電話=監視装置 9月18日付のワシントン・ポスト紙の記事によると、シュクル氏は何者かからの電話を受け、ベイルートの高層ビル7階にある同氏のアパートに行くように言われた。その直後、イスラエルの爆弾あるいはミサイルがアパートを攻撃した。 ナスララ師は信者たちに、携帯電話は「監視装置」であり、「詳細で正確な情報を提供できる恐ろしい手段」だと語ったとされる。 イスラエルによる要人暗殺の背後にはハッキングされた携帯電話の通信情報があると懸念したナスララ師は7月、ヒズボラ部隊に携帯電話の使用を全面的に禁止するよう命じた。その代わりに一気に普及したのがポケベルであり、トランシーバーだ。
イギリスのテレグラフ紙などによると、イスラエルがポケベルを武器化した手口は次のようになっている。 ① ヒズボラはレバノンとシリア全土のメンバー向けに数千台の新しいポケベルを注文 ② イスラエル工作員が「サプライチェーン攻撃」で委託品を途中で押収 ③ 各通信機器に10~20グラムの軍用グレードの爆発物が詰め込まれる ④ 秘密裏に武装されたポケベルがヒズボラに届けられ、メンバーに配布される ⑤ 各通信機器は特定の英数字メッセージを受信したときにのみ爆発するように事前セット