観光客にあえて高いハードルを…ジョブズも愛した京都のお寺の「驚きのオーバーツーリズム対策」
---------- 日本各地で今、問題となっている「オーバーツーリズム」。解決の手がかりとなるのが、あのスティーブ・ジョブズも愛したという京都「苔寺」がとった大胆な策だ。「苔寺」はどのようにしてオーバーツーリズムを克服したのだろうか? 著書『オーバーツーリズム解決論』(ワニブックス)を発表した、九州大学准教授の田中俊徳氏が解説する。 ---------- 【写真】舞妓さんを執拗に追いかける者も… 京都が苦しむ「オーバーツーリズム」
スティーブ・ジョブズも愛した寺
観光客をコントロールするには、規制的手法、経済的手法、情報的手法が存在し、あとはこれらの組み合わせや応用である。 では、具体的にどのような事例が存在するのかを紹介するとともに、「なぜ」こうした戦略をとることができたのか、その構造に踏み込んで、個別の事例をご紹介したい。 (前回記事で紹介したように)オーバーツーリズムに苦慮する京都であるが、世界文化遺産にも登録されている西芳寺(通称・苔寺)の戦略は注目に値する。 苔寺と言えば、かのスティーブ・ジョブズも愛した寺として知られるが、1970年代には、多くの観光客が殺到し、美しい苔が台無しになるという事件があった。 当時の朝日新聞によると、1976年は1日あたり2000人、多い日には8000~9000人の参拝客が西芳寺を来訪し、混雑、渋滞、騒音、ゴミのポイ捨て、更には苔の踏みつけによる荒廃といった典型的なオーバーツーリズムの様相を呈していた。当時の参拝料は1人400円である。
「苔寺」がとった大胆な解決策とは
苔の荒廃に困った西芳寺では、1977年からそれまでの方針を変更し、「往復はがきによる完全予約制」による参拝とし、1日あたりの訪問客については150人を目安とし、3000円以上の参拝冥加料の支払いを求めるようになった。 参拝者は必ず写経を行い、心を落ち着けたうえで、初めて美しい苔を見ることができるという仕組みである。 注目すべきは、往復はがきでしか予約の申し込みができないという「不便さ」(2021年6月まで)、そして、必ず写経をしなければ、苔を見ることができないという「障壁」、さらには、3000円という高額な料金設定である。 しかしながら、この不便さや障壁、金額設定が功を奏し、本当に苔が見たい良質な参拝客のみが計画的に苔寺を訪問するようになり、写経という特別な体験も含めて、スティーブ・ジョブズをはじめとする多くの人々を魅了した。 2024年現在は、ウェブサイトからの申し込みも可能となり、4000円以上の参拝冥加料が必要と、さらに高額になっているが、世界文化遺産である苔寺の遺産価値を守るとともに、その価値を真に体感できる仕組みとなっている。 苔寺の手法が面白いのは、オーバーツーリズムを克服するための規制・課金・情報という全ての手法が巧みに組み合わされている点である。 つまり、往復はがき(現在はオンラインも可能)でのみ予約できるという実質的な許可制、そして、軽い気持ちでは参拝できない高額な値段設定と写経という体験、これらが上手に組み合わされている。