「書いた分は裏切らない」 イメージ大切に創作 21世紀国際書展グランプリの片岡竹彩さん
7月10日に開幕する「第39回21世紀国際書展」(主催・産経新聞社、21世紀国際書会)の授賞式を前に、特別大賞に選ばれた4人の横顔を紹介する。グランプリに輝いた片岡竹彩さん(69)が大切にするのは作品の下準備にあたるイメージだ。「書いた分は裏切らない」。基本を大切にする姿勢が受賞に結びついた。 【写真】グランプリに輝いた片岡竹彩さんの受賞作品 ■字に思い乗せる 作品をどうイメージするか。それは芸術家にとってもっとも大事なことだろう。書家にとっても同じだ。構図や文字の太さ、大きさ、そして墨の濃淡。選んだ詩や字の意味に、作者が感じ取った思いをのせる作業ともいえる。 「今回の作品はまず詩が気に入ったんですね。『人生は短いから、いまを一生懸命遊びましょう』という古詩です。でも、書こうと思った時に、ただずらずらと書くのでは面白くないと。構図を考えるのに時間がかかりましたね」 「生年不満百」から始まる詩の一つ一つの字を調べ、鉛筆を使った下書きに取り掛かった。最初に書いたものから一つ一つの字の形、太さ、大きさを変えたり、中心をずらしてみたりして、時間を掛けて数パターンの下書きを仕上げた。 そこから、実際に筆で書くイメージをさらに磨いた。例えば、筆の使い方。どう返すのか。細さを魅せるのか。太さを強調するのか。それぞれが同じ調子にならないよう変化と遊びを入れた。しっかりとした下準備を経て、題材を見つけて2カ月弱で作品を仕上げた。 「(イメージを整えてからは)そんなに長い期間を掛けていません。書けば書くほど、逆に整ってしまうので」 ■教えは忠実に 幼いころから、書が身近にあった。平成8年度には川崎市文化賞を受賞したこともある父、中川竹泰(ちくたい)が主宰する書道教室で「兄と姉と一緒になって幼稚園ぐらいからやっていて、気が付いたら全部の字が書けていた」。高校時代に一時、書から離れたものの、大学に入って教員免許を取得する際に、再び書と向き合った。「そこで初めて書の勉強の仕方を習った。そして改めて父の作品を見ると、こんなにも美しい字を書いていたのかと驚いた」という。 大学時代、手本を基に書いていると、恩師によく言われたことがある。「これと手本は一緒か」「似て非なるものだな」。筆遣いや墨の使い方を学んでいること、つまり書の基本を身に付けていなければ、手本通りには書けない。作品をイメージし、創造力を働かせて創作するためには、確かな礎が必要なのだ。