じつは、日本列島では「かなりの頻度で起こっていた」…あまりに多くの犠牲者を出してきた「噴火による山体崩壊」。その発生要因と「リスクへの備え」
山体崩壊の規模と被害
崩壊量は小規模なもので1km³以下、大規模なものでは数百km³に及ぶこともある。 山体崩壊により、崩壊物は岩屑なだれ(debris avalanche)として火山体周囲に広がり堆積するが、流路にあるものはほとんどがなぎ倒され堆積物の下に埋もれてしまう。山麓の広範囲に火山体の残骸である多数の地形的高まり(流れ山)が形成され、給原には崩壊地形ができる。 世界には多くの崩壊事例があるが、いずれも特定の方向に馬蹄形に開いた崩壊地形とその下流域に流れ山が存在し、それらが山体崩壊の発生の根拠となっている。このような地形的な特徴は海底での斜面崩壊が起きた場合にも共通する。 一方で明瞭な流れ山地形が形成されないこともある。例えばラスタリア火山(チリ)で発生した山体崩壊では、流れ山が形成されない代わりに堆積物末端での高まりや堤防状地形など、火砕流堆積物によく見られるような地形が形成された。こうした例は、山体崩壊では場合によっては崩壊物の細粒化が急速に進み、火砕流と同じような挙動をとることを示している。
1つに特定することの難しい、山体崩壊の要因
山体崩壊の要因として、 マグマや熱水(流体)の山体浅部への上昇などに伴う山体内部からの加圧・破壊の進展火山性または非火山性の地震や地殻変動など外的な要因による応力状態の変化風化・熱水変質作用による長い年月をかけての山体強度の低下 などが挙げられる。これらの要因が複合的に関与する場合もある。とくに古い時代の事例については、マグマ活動と非マグマ活動のどちらが直接的に崩壊現象に関与したかを厳密に決めることが難しい場合が多い。
火山観測で捉えられた「セントヘレンズ火山」の山体崩壊
山体崩壊が近代的火山観測網により捉えられ、その脅威が初めて認識されたのは1980年のセントヘレンズ火山(米国)でのイベントだ。 このイベントは先の山体崩壊要因の候補のうちA. に相当し、マグマ貫入に伴う浅所での破壊の進展が引き金となり、標高2950mの火山体が大崩壊を起こした。その結果、岩屑なだれの発生とともに馬蹄形の巨大な崩壊地形が生まれ、標高は2550mまで減少した。崩壊量は2.5~2.8km³に達し、周囲への影響も極めて甚大なものだった。 特筆すべき点は、単に山が崩れるだけでなく、崩壊に伴い浅所に貫入していたマグマが急減圧を受けて爆発的に膨張し、既存山体とマグマが一体となり莫大な運動エネルギーをもって一気に噴出したことだ。 その結果、岩屑なだれのみならずブラスト(爆風)が発生し、山体北側の広大な地域を破壊した。さらに山体荷重が取り除かれたことにより、減圧されたマグマが引き続き上昇しプリニー式噴火に移行したのだ。 このイベントは、山体崩壊が時にはマグマの動きと密接に関係し、大爆発を引き起こす非常に危険なものであることを示した。