音と映像、強烈な没入アート体験 黒川良一が見せる「時間彫刻」とは
デジタルと生命の境界線を探るオーディオビジュアルアーティストの黒川良一が、2024年11月に開催されたMUTEK.JPで2作品を披露した。戦争、自然と文明を題材にした没入型のインスタレーションは、見たものに強烈な体験として刻まれた。 黒川の作品制作の背景にあるものとは。また、こうしたアートはわたしたちになにをもたらすのか。 「アートや音楽、コンピュータサイエンスを専門的に学んできたわけではなく、あくまで自分はアマチュアだと思っています」 そう控えめに語る黒川良一は、1999年より京都にて映像・サウンド作品の制作を開始。2003年からはSónarなどの舞台で細野晴臣、高橋幸宏、そして後に坂本龍一も加わるユニット、HUMAN AUDIO SPONGE(Sketch Show + 坂本龍一)のビデオパフォーマンスを手がけた。 2010年にはアルス・エレクトロニカのデジタル・ミュージック&サウンド・アート部門で最優秀賞を受賞。同年からベルリンを拠点に活動し、世界的なメディアアートのフェスティバルで数々の称賛を受けてきた。 作品の特徴は、時間、空間、光、音といった要素を巧みに操り鑑賞者に深い没入体験を提供するもの。建築、自然、社会問題をテーマに据え、コンセプトの深さとビジュアルの美しさから幅広い層の注目を集めている。 MUTEKは、カナダ・モントリオール発のデジタルアートと電子音楽の祭典。東京・渋谷を舞台にした「MUTEK.JP 2024」では、オーディオビジュアルインスタレーションのエキシビション「ETERNAL Art Space」が同時開催され、黒川は同展で「ground」(2011)、「re-assembli」(2022)の2作品を発表した。 ◾️戦争と崩壊を眼前に 「ETERNAL Art Space」のテーマは、"Humanity and the Modern System - showcasing reality as art as a transformative experience - "(現実を芸術として見せることで、観る者にトランスフォーマティブな体験をもたらす)。日常の出来事や要素をアートに変換し、鑑賞者に新しい視点や感覚を与えることで、意識や視野に変化をもたらすことを目指した。 黒川の「ground」は、ベルギーのカメラマン/映画プロデューサー、ダニエル・ドゥムスティエが中東の戦地で撮影した写真や映像を再構成した作品。戦士たち、紛争地の市民、荒廃した風景といった戦場の数々のシーンを繊細にカットアップ。恐怖や哀しみといった感情を詩的に表現する。世界で起きている現実を直視させるだけでなく、鑑賞者自身の深い内省を促す現代アート作品だ。 「ダニエルから映像と写真、音声をもらってそれを再構成しました。彼は、僕に提供したようにテレビ局や媒体に素材を提供するのですが、その素材の使われ方には、彼のジャーナリストとしての意思は反映されません。 同じように、僕も極力意味を持たせず、戦争をしている側、受けている側、両方の映像を均等に使って作品としました。地上(ground)で起きていることをそのまま見せる。反戦のメッセージですが、戦争している側にも理由があ り、それぞれの座標があることを提示しました 」