音と映像、強烈な没入アート体験 黒川良一が見せる「時間彫刻」とは
作品に「音の暴力性」を
印象的なのは、被写体、風景がどろりと溶けるように変化していく数々のシーケンス。AIでの映像生成かと思いきや、「2011年の作品なので、その技術はまだなくて」と黒川。それぞれのフレームのスチール写真の特徴点を抽出し、モーフィングにより変化させている。「今ならAIで自動的に生成できるような動画を、当時は1枚1枚、画像プロセッシングしていました」。 一方の「re-assembli」は、黒川が自らの主なテーマとして掲げる人間と自然の関係性を追求するもの。森林内で朽ち果てる建物をモチーフに、文明と自然の共存と崩壊を描き出す。 2対の画面に、建築物が徐々に自然に飲み込まれていく様子、木々が茂る様子がリアルに映され、緻密にプログラムされた音響がそれを引き立てる。不穏さと美しさが入り混じる独特の空気感を醸し出し、時間や物質の儚さについてあらためて意識させられるものだ。 「自然の再構築、という言い方をするんですが、僕たちが普通に見ている自然と別の様相を見せようとしました。人工物は自然をハイライトさせるために使用されています。 廃墟をレーザースキャンしてデジタルデータとして取り込み、億単位の点群データをコントロールして動かしています。いまやポイントクラウドを扱うソフトウェアは一般化していますが、制作していた18年、19年ごろは建築の一部分野で使われていただけだったので、独自のソフトウェアをカスタムして制作にあたりました」 両作品において効果的に使われている音については、次のように解説する。 「僕の作品のなかには、音の暴力性が重要な役割を果たすものがあります。それはただ大きくて怖い音が鳴っていればいいというわけではなく、暴力的な音のあとに静かな時間をいれて緊張感をもたせるなど、差を使って情緒を強調していくという方法はいつも意識しています」 ◾️時間彫刻という概念 耳をつんざくような音量のサウンドが、内蔵が震えるような強烈な重低音が、ふと、ゼロになった瞬間に、スクリーンに映し出される建物が爆撃で消し飛ぶ。建造物が構造を破壊され自然物へと変化していく──。 深い恐怖や絶望、寂寥感など、強い感情が呼び起こされる。この動から静、静から動のダイナミックな変化が繰り返され、強い没入体験となる。 この手法は、黒川が追求する「時間彫刻(Temporal Sculpture)」の概念を色濃く表現している。時間を素材として扱い、視覚的および聴覚的に体験可能な形で構成する。時間の流れを造形のように操作し、見るものが変化や持続性を体感するものだ。