世界一長距離を移動する淡水魚が判明、南米アマゾンを往復1万キロ以上も旅する巨大ナマズ
アンデス山脈からアマゾン河口まで、新たに国際条約の保護対象に
数十年前、ロナウド・バーセム氏がブラジルのアマゾン川河口域で巨大ナマズの一種、ブラキプラティストマ・ルソーイ(Brachyplatystoma rouseauxii)の研究を始めたとき、困惑したことがあった。それは、おとなの魚がいなかったことだ。成長すると体長2メートルほどになる金色の魚は、いったいどこで産卵しているのだろうか。 ギャラリー:世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた 写真14点 長年にわたる調査の結果、驚くべき答えが明らかになった。この魚は、いくつかの国を越え、南米大陸の反対側であるアンデス山脈のふもとまで、はるばると旅をしていた。2023年11月に学術誌「Fish and Fisheries」に掲載された研究によると、往復1万1000キロ以上の旅は、世界の淡水魚の中でも群を抜いて最長だ。 このような長距離移動を行うことで、若い魚は藻類から虫まで、さまざまな食べものを得ることができる。これは、成長や生存に役立っているはずだ。しかし、体重90キロ以上になるにもなる魚が、このような国境を越える長旅を行うと、乱獲や水力発電ダムなど、人間の脅威による影響を受けやすくなる。 まさにその理由により、回遊性の淡水魚は1970年と比べて76%減少している。今や世界中で最も絶滅が危ぶまれるタイプの動物の一つだ。 このような危機的な状況に追い込まれているにもかかわらず、これまで回遊性の淡水魚はほとんど保護されてこなかった。「移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約、略称CMS)」に挙げられている約1200種の動物のうち、回遊魚はたった2種。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで近絶滅種(critically endangered)に指定されているメコンオオナマズと、絶滅危惧種(endangered)のミズウミチョウザメだけだった。 しかし、2024年2月、ボン条約の回遊魚に、このB. ルソーイと、同じくアマゾンの巨大ナマズであるピラムターバ(Brachyplatystoma vaillantii)が加わった。これは、南半球の魚で初めてのことだ。 多くの魚類専門家は、この知らせに歓喜した。ブラジル北部のベレンにあるゲルディ博物館の生態学者であるバーセム氏も、その一人だった。「おそらくこれは、アマゾンの水界生態系を保護する取り組みの中で、最も有望なものでしょう」 野生生物保全協会(WCS)で国際政策担当の副理事を務めるスーザン・リバーマン氏によると、今回の登録により、種の移動経路にあたる国の政府同士が協力しやすくなるので、より良い保護計画を立てられる可能性があるという。