〈イスラエルの重大な欠点〉レバノン侵攻で見えない出口戦略、中東安定はあるのか?
見えないレバノン国境安定化へのプラン
イスラエルのレバノン侵攻が、遂に始まってしまった。しかも、初めから、ヒズボラの後見人である域内の大国イランを巻き込んでおり、この衝突が、中東全域、特に日本が原油輸入の90%以上を依存するペルシャ湾地域に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。 上記の記事は、1982年から2000年の長期間、イスラエルは南レバノンに最初はPLO(パレスチナ解放機構)、その後はヒズボラからの越境攻撃を防ぐために「安全保障地帯」(占領地)を設けたが、結局、撤退を余儀なくされた苦い経験があるのにもかかわらず、再度、イスラエルが陸上侵攻していることについての懸念を示している。これには同意できる。 最大の問題は、イスラエルの戦略目標が見えないことである。レバノン正面について言えば、イスラエルはレバノン作戦の目標を避難民の帰還としており、現時点では優れたインテリジェンス、軍事力でヒズボラを圧倒している。しかし、長期的にヒズボラの越境攻撃を防ぐためには、再度、南レバノンの一部を占領せざるを得ないのではないか。
イスラエル側は、今回は占領しなくても圧倒的な軍事力でヒズボラを押さえ込めると考えているかも知れないが、そううまくいくだろうか。上記の記事は、ハマスについて「軍の首席報道官ですらイデオロギーおよび運動としてのハマスを殲滅することは不可能だと述べている」と言及しているが、これはヒズボラも同様である。 今、いくらヒズボラに対して優位に立っていてもヒズボラには侵略者イスラエル軍を追い出すという大義名分があるので無力化は困難であろう。イスラエルに恒久的にレバノン国境方面を安定化させるプランがあるとは思えない。
多方面作戦に耐えられるか
この記事では触れられていないが、イランを巻き込んでしまったことは、さらに大問題だ。しかも、これはイスラエルが繰り返しイランを激しく挑発したためである。 しかし、イスラエルから千キロ以上離れたイランに対してイスラエルが出来ることは、空爆や弾道ミサイル攻撃、要人暗殺等の特殊作戦に等に限られよう。イランの弾道ミサイル基地、防空網、要人殺害、米国が反対している石油関連施設、核開発関連施設がターゲットとなろうが、それでイランが怯んで大人しくなる可能性は低い。 一体、イスラエルは、イランとの衝突はどのように収めるつもりなのだろうか。空爆などでイランを不安定化させて、イスラム革命体制の転覆を考えているのであろうか。 最悪の可能性は、自己保身のために危機的状況を続けなければならないネタニヤフ首相が、出口戦略無しに事態を悪化させており、昨年10月のハマスの攻撃でイスラエルの安全神話を崩されてパニックになったユダヤ系イスラエル人が盲目的に多正面での同時戦争を支持していることだが、イスラエル経済が多正面作戦の継続に耐えられるとは思えない。最近、米国の格付け会社はイスラエルの格付けを下げた。
岡崎研究所