最も「賢くて健康的な」遺伝子を持つ「スーパーベイビー」がもうすぐ誕生! 米国の高額スクリーニングサービスが物議
「子供のIQを6ポイント向上させることができる」
米スタートアップ「ヘリオスペクト・ゲノミクス」の「胚をスクリーニングするサービス」が物議を醸している。 【画像】親が子供の遺伝的特性を「強化」する時代はもうそこまできている? 英紙「ガーディアン」によれば、同社は知能指数(IQ)や身長、肥満のリスク、精神疾患のリスクなどの特性を持つ胚をスクリーニングするサービスを提供しており、かかる費用は最大100個の胚を検査するのに約5万ドル(約760万円)、より少ない胚の検査には約4000ドル(約60万円)を請求しているという。 それぞれの胚が持つ前述のような特性をスコア化、そしてランク付けをし、最も「賢くて健康的な」胚を選ぶことで、子供のIQを6ポイント以上向上させることができると主張している。 これまでに12組以上のカップルがこのサービスに協力しており、そのなかの5組のカップルが妊娠に成功した。それらの胚は2023年末までに選別されたもので、その赤ちゃんがもうすぐ産まれてくる予定だと報じられている。 同紙が掲載したこれらの情報は、英国の調査グループ「Hope Not Hate」による潜入調査から得たものだという。 同紙によれば、胚の特性に基づいた選別は「英国では違法だが、発生学(胚の発生を研究する学問)の規制が緩い米国では合法」だ。ただ、IQスクリーニングはまだ商業的に利用可能ではなく、同社は正式にはサービスを開始していない「ステルスモード」にあるという。 とはいえ、倫理的な問題に対する議論が進んでいない状況での技術展開に対し、専門家たちは慎重になるべきだと警告している。
このサービスの最大の倫理的問題とは?
同社のアプローチは「リベラル優生学」という、胚の選択や遺伝子工学による胚の操作によって望ましい特徴を備えた子供を作ることを、親の自発的な選択である限り支持する思想の一部である。 ガーディアンによれば、元金融市場トレーダーの同社のCEOは、このスクリーニングに関心を寄せる富裕層カップルを装った潜入調査員に対し、「誰もが賢くて健康な子供が産める未来」がいかに素晴らしいかを豪語していたという。 また、同社の上級スタッフのなかには「リベラル優生学」の擁護者として知られるオックスフォード大学の元フェローのジョナサン・アノマリーもいる。彼は過去のインタビューで、「リベラル優生学は、国家主導の強制的な優生学とは異なる」と強調し、「子供の将来を向上させるためのテクノロジーが利用可能になったら、それを利用するかどうかは親が自由に判断できるようにすべきだ」と語っている。 だが、同社の主張するこの技術には倫理的な懸念が多く、特に「優れた」遺伝子と「劣った」遺伝子を区別することに問題があると指摘されている。 この技術の「最大の問題のひとつは、遺伝的特徴を『優劣』で判断する考えを正常化してしまうこと」だと、オックスフォード大学の生殖遺伝学教授のダガン・ウェルズは同紙に語っている。 このようなテクノロジーサービスの展開は、「不平等は社会的原因ではなく生物学に起因するという考えを強化する」と警告し、また、そのサービスを利用できるのは「誰も」ではなく「一部の富裕層」に限られる可能性についても懸念を示している。 親が子供の遺伝的特性を「強化」する時代が来る可能性がより現実味をおびているいま、その社会的影響についての議論が早急に求められている。
COURRiER Japon