政権が崩壊したフランスの政情不安をどう見るか、戒厳令で混乱する韓国、トランプの米国など世界各国でカオスの連鎖
■ フランス政治の惨状を招いたマクロン大統領の「裏切り」 マクロン大統領は、6月頭に実施された欧州議会選で自らが率いる中道政党に不利な風が吹いたと判断、下院(国民議会)を電撃的に解散し、7月に総選挙を行った。しかしながら、結局、自らが率いる中道政党ルネッサンスは議席を大幅に減らした。 一方で、自らの最大の政敵であるマリーヌ・ル・ペン氏が率いる右派政党の国民連合の台頭を防ぐべく、マクロン大統領はジャン=リュック・メランション氏が率いる左派連合と手を組んだ。その結果、下院で国民連合の勢力が急伸する事態は回避できたものの、右派、中道、左派が文字通り「三つ巴」の構図で議席を分け合うかたちとなった。 さらに、マクロン大統領は首相の選任に当たって、選挙で協力を仰いだはずの左派連合からの選出を拒絶し、今度は国民連合に近いバルニエ氏を任命するという荒技を使った。バルニエ氏は中道右派でかつての名門政党である共和党の出身だが、そうであるがゆえに、右派である国民連合の理解を得られるという判断が大統領に働いたようだ。 当然、裏切られたかたちとなった左派連合の怒りは収まらない。ところが、マクロン大統領は国民連合を懐柔することもできなかった。巧妙に立ち回ろうとし過ぎたマクロン大統領は、結果的に四面楚歌に陥ることになった。マクロン大統領は国民からの支持も失っており、あらゆる世論調査で劣勢に立たされている状況である。 最大2期10年までという憲法上の多選規定により、2017年5月に就任したマクロン大統領の任期は残り2年半となる。もはや求心力の回復は望みがたく、マクロン大統領が辞任する事態も視野に入り始めた。任期途中での辞任となると、1958年に発足した第五共和制では、それこそシャルル・ド・ゴール元大統領以来のことになる。
■ 歳出拡大に立ちはだかるEUの分厚い壁 マクロン大統領が辞任しなくとも、2027年5月には大統領選が行われる。ただ、人気の高い国民連合のマリーヌ・ル・ペン氏が出馬するかはまだ分からない。ル・ペン氏は今、欧州議会議員在職中の不正疑惑を受けて係争中で、有罪判決を受けた場合、5年間の公職停止となるためだ。ゆえに、ジョルダン・バルデラ党首が出馬するかもしれない。 あるいは、左派連合から出馬する候補が次の大統領になるかもしれないし、一転して中道会派からマクロン大統領の後継候補が次の大統領になるのかもしれない。右派や左派の候補が大統領になった場合、意識されるのは財政の悪化だ。右派は減税、つまり歳入減を通じたバラマキを、左派は給付金、つまり歳出増を通じたバラマキを志向する。 そこに立ちはだかるのが欧州連合(EU)の壁だ。右派と左派の両方がいかにバラマキを志向しようと、フランスはEUの規定に基づいてしか財政を運営しえない。いわゆる安定・成長協定(SGP)の下、単年度の財政赤字は原則的に名目GDP(国内総生産)の3%以内に抑制する必要がある。違反すれば、多額の違約金を払わなければならない。 【図表2 フランスの財政収支】 フランスの財政赤字は、コロナショックが生じた2020年以降、SGP違反の状況が続いている。今年の6月にはEUの執行部局である欧州委員会より過剰財政赤字手続き(EDP)を発動されており、財政赤字の是正が要求されている。そのため、バルニエ首相は緊縮型の予算案を作成した。EUに加盟している以上、この構図は変わらない。 つまり、フランスでどのような指導者が就任しようと、EUにいる限り、フランスはSGPに基づく財政運営を求められる。その壁を無理やり乗り越えようとすると、金利の急騰や株価・通貨の急落というかたちで金融市場から厳しい評価が下される。では、EUから離脱したらしたで、さらに強烈な痛みをフランス経済は負うことになる。