「軍事オタク」が専門家から全く相手にされない3つの理由 元海上自衛官が冷静に分析する
理由2「模型屋と写真屋だから」
第二は、「抽象化できない」ことである。 軍事マニアは細部ばかりにこだわる。捨象の上でマクロの視点からの観察はできない。そのため、細部だけは正確だが 「全体としてとんちんかん」 となる間違いをする。 その性向は 「ゼロ戦のネジの数にこだわる」 との比喩が示すとおり。これは評論家の牧田寛さんによる秀逸な例えだ。入り口の多くは ・模型趣味 ・写真趣味 である。その後も模型や写真と軍事を一体として愛好する。だからカタログスペックのような細部の話から離れられない。 これも専門家が嫌厭する理由である。問題に合わせた抽象水準の調節はできない。実際にゼロ戦が出てくる話では形式や性能から離れられない。「戦力としてなら21型も52型も同じ」や「本土防空戦なら米戦闘機とも対等である」といった話は理解しない。それこそカタログスペックを持ち出して「不正確であり誤り」といい出す。さらには「『ゼロ戦』ではなく『零戦』」と表記まで文句をつける。 15年前の戦車導入でもマニアたちはミクロから離れられなかった。専門家による新戦車導入への疑問や戦車戦力見直しを理解できなかった。 「10式戦車も90式戦車も同じ第三世代戦車であり戦力としては同じ」 「海空戦力強化の方針からすれば戦車に投資すべきではない」 といった抽象化した議論を拒絶した。 できたのはカタログスペックでの有利を持ち出すことだけだ。抽象的な防衛力整備の話に対して判で押したように「新型の10式戦車は在来の90式戦車よりも高性能だから買うべき」との反応を返した。その高性能もさまつ要素の列挙である。 「1割軽い」 「コンピューターが新しい」 「新素材をいっぱい使っている」 であり、なかには「バックで時速70km出せる」もあった。 しかも、新兵器導入の必要性で高性能を持ち出す誤りでもある。新兵器を購入する理由は「現用兵器よりも高性能だから」ではない。「現用兵器では解決できない問題を解決できるから」である。 これも専門家が相手にしない理由である。抽象的な話をしているときに「戦車のコンピューターが新しくなる」は的外れでしかない。