「クルマのエンジン」前後を逆にしたらあらゆる性能が向上する?
こうなると例外があると困る。せっかくガソリンエンジンを後方排気にしたのに、ディーゼルエンジンが前方排気では、両方に対応させるエンジンフードの高さは下げられない。そこでガソリンエンジンに合わせて、ディーゼルエンジンも後方排気にすることで、例外対処のためのスペースが要らなくなるわけだ。 またモジュール設計によって、ガソリンとディーゼルのエンジンブロックの共用化が進み、エンジンのマウント位置を全て統一することができるようになってきた。例えば最初に引き合いに出したフォルクスワーゲンでは、ディーゼルエンジンは最初から後方排気で後ろに傾けて搭載されていたが、ガソリンエンジンは前に傾けて搭載されていた。前にも後ろにも傾く可能性があるので、前後にスペースを用意しなくてはならなかったのだ。 これをガソリン、ディーゼルともに後傾に統一し、マウント位置を同一にしたのだ。そうなるとエンジンルームと車室を分ける壁(バルクヘッド)の設計を決め打ちして作れる。その分車室を広くしたり、余裕があるスペースを利用してサスペンション設計の自由度が上がったりする。エンジンをできる限り同じサイズにし、同じ様に搭載することで、クルマ全体の性能が向上することなる。 トヨタは、フォルクスワーゲンが打ち出したMQB(Modulare Quer Baukasten)と呼ばれるこのモジュラー設計をトヨタ流にアレンジし、TNGA(Toyota New Global Architecture)と名付けて3月から新しい展開を始めた。トヨタによれば、このTNGAによって低重心化、軽量・コンパクト化を実現し、パワートレーンシステム全体の効率を向上させることで燃費を25%、動力性能を15%以上向上させ、さらにスペース効率の向上をボディデザインやハンドリングにも活かして「もっとかっこいいクルマ、より卓越したハンドリング」を実現するのだという。 エンジンの前後を入れ替える。たたそれだけのことでクルマの性能が多方面で向上するという興味深いことが、いままさに進行中なのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)