「クルマのエンジン」前後を逆にしたらあらゆる性能が向上する?
吸気が後ろ・排気が前になった理由
クルマの場合、単気筒エンジンということはまずないから、吸排気の出入り口は隣のシリンダーに干渉しないように配置される。燃焼室を部屋だと考えるとホテルのドアのように各部屋の前に吸気弁を配置し、各燃焼室に空気や混合気を効率よく流し込む様に専用のエントラントがついている。これがインテークマニフォールドだ。ホテルの部屋と違うのは、ドアは部屋の反対側にも設けられてそちらは出口専用ドア、つまり排気弁だ。出口にも専用のエグゾーストマニフォールドが取り付けられている。 そしてこの入り口、吸気側が、これまでのエンジンでは必ず車両の後ろ側、つまりクルマのドライバー側に設けられ、エンジン前方には排気管が取り付けられていた。 こういう設計になっていた最大の理由は、昔は燃料供給にキャブレターが使われていたからだ。キャブレターにはどうしてもエンジンの後方にレイアウトしたい理由があったのだ。その問題の現象を「アイシング」と言う。 ガソリンエンジンは、空気とガソリンを理論空燃比である「14.7:1」に混合して燃焼室内で燃やすことで出力を得ている。キャブレターの内部には空気の通路が細くなった部分(ベンチュリー)があって、ベンチュリーで絞られた空気はベンチュリーに突き出した燃料ノズルの直後で慣性によって剥離(はくり)を起こし、その結果、負圧が発生して燃料が吸い出される。「霧吹きの原理」だ。この燃料が霧になって空気と混ざることで混合気になるのだ。 余談だが、「気体は速度を上げると圧力が下がりベルヌーイの法則によって負圧が発生する」という説明は間違いで、剥離が起きた時に初めて負圧が発生するのだ。このあたりを説明する実験は「日本機械学会流体工学部門」がとても分かりやすい動画で公開している。 さて、この剥離はベンチュリーで絞られて流速が上がった気体が急激に進路を変えられ、同一密度を保てなくなって部分的に膨張することで起きる。気体は膨張すると温度が下がる。この時、大気に水分が多く混じっていると氷結が発生する。これがキャブレター内部のあちこちに付着してキャブレターの機能を阻害してしまう現象をアイシングと呼ぶのだ。 アイシングの対策はキャブレターを外側から温めること。そのためにはエンジンの後ろ側に置いて、エンジンの熱気で温めてやった方がいい。だからインテークマニフォールドをエンジンの後方に置きたいのだ。 他にも理由はある。エンジンで一番高温になるのは、排気弁とエグゾーストマニフォールドだ。排気ガス規制がうるさくなかった時代は、排気弁はともかくこのエグゾーストマニフォールドにできるだけ風を当てて冷やしてやりたかった。だから排気側はエンジンの前方に置きたい。つまり両方の都合から考えると、クロスフローが常識になって以降、後方吸気/前方排気は、技術的必然があったのである。