「クルマのエンジン」前後を逆にしたらあらゆる性能が向上する?
インジェクションと排気デバイス
ところがインジェクションの時代になると、燃料に圧力をかけて強制噴射する仕組みに変わり、アイシングの心配がなくなった。もう吸気系を後方配置にする必要が無くなったのである。 一方で排気系はむしろ前方に置きたくなくなった。厳しくなった排気ガス規制をクリアするために、排気ガスの浄化装置(デバイス)を取り付けなくてはならなくなったからだ。浄化装置はそのほとんどが排気ガスの有害成分を化学反応させて無害な物質に変える仕組みなので、化学反応を活発にするため温度は高い方が良い。そうなるとエグゾーストマニフォールドは冷やさないことが重要になってくる。 さて、こうなるとエンジンは後方吸気/前方排気から前方吸気/後方排気に切り替えたくなる。その流れを最初に作り出したのはフォルクスワーゲンだった。エンジン側の理由はこれまで書いた通りだが、車体側にもとても好都合だったのである。
歩行者保護とモジュラーの時代
最近のクルマは対人事故の歩行者保護の見地から、エンジンとボンネットフードの間に空間を設けると共に、ボンネットを衝撃吸収構造にして、万が一の事故の際に歩行者の損害を少しでも軽減するように作られている。それ自体は自動車の正しい進歩なのだが、結果的にボンネットの高さが上がってしまった。 ボンネットの高さが上がれば、同時にインパネの高さも上がる。ドライバーの視界を確保するためには、着座姿勢をアップライト(背中を立てた状態)にセッティングしなくてはならない。そうなるとルーフの高さも上げなくてはならなくなる。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、ボンネットの高さ変更がクルマの基本的な設計に大きな影響を及ぼしたのだ。 そうなると、エンジンをもっと低くマウントしたくなる。ところが最低地上高を下げると悪路でメカニズムが損害を受ける可能性が高くなる。特に最近の様にグローバルに共通コンポーネットを使う様になると、新興国の路面状態を考慮しなくてはならない。 そこで白羽の矢が立ったのが排気管である。前方排気でエンジンの前側に出た排気管はエンジンの下を通って、クルマの後方へ導かれる。もし、エンジンの下に排気管を通さなくていいのならもっとエンジンの搭載位置をその分下げられる理屈である。 勘の良い読者ならもうお気付きの通り、ここで後方排気型のエンジンがスポットライトを浴びるのだ。排気管はエンジン直下で直径5センチ以上はある。しかも熱を持つ部品なので周囲の部品とのクリアランスも取らなくてはならない。後方排気ならこれが全部要らなくなるのだ。 エンジン搭載位置を仮に10センチ下げられれば、歩行者保護のための空間を設けても、ほぼ従来通りのフードの高さを実現できる。もちろん重たいエンジンの搭載位置を下げれば、重心が下がり、走行性能があがる。重心位置が下がれば、遠心力でクルマを倒そうとする(ロール)モーメントのテコが短くなるので、少なくとも耐ロールで考える限りはサスペンションのばねも柔らかくできる。当然乗り心地が向上する可能性が高まる。