タイタンの「魔法の島」は有機化合物の “軽石” が原因?
土星の衛星「タイタン」の表面には広大な液体メタンの湖があります。湖には幾つかの島がありますが、中には一時的に観測された後に消えてしまう「魔法の島(Magic Islands)」も見つかっています。魔法の島がどのように出現するのかはこれまでのところ不明でした。 今日の宇宙画像 テキサス大学サンアントニオ校のXinting Yu氏などの研究チームは、有機物の多孔質な塊がメタンの湖に浮かぶ条件を探索し、魔法の島として観測される条件を満たしていることを示しました。これは地球の海において一時的に出現し、最終的に沈んで消えてしまう軽石でできた幻の島と似ています。
■タイタンの湖の “魔法の島”
土星の衛星「タイタン」は、天体の表面を液体が覆っていることが観測されている地球以外で唯一の天体です。分厚い大気に加えて気象や季節の変化もあることから、タイタンはある意味で地球と似通っている天体と言えます。ただし、タイタンの平均気温はマイナス180℃と低く、表面の液体は水ではなくメタンを主体とした有機化合物です。 タイタンの表面は一部が地図化されています。そこには日本列島の総面積より広いクラーケン海を始めとした大小さまざまな湖があり、いくつかの湖には島が見つかっています。これらの島は恒久的に存在する本物の島である場合もあれば、数時間から数週間だけ出現した後に消えてしまう島もあります。一時的に存在する島のような構造は、地球においては「幻島」や「疑存島」と呼ばれますが、タイタンにおいては「魔法の島(Magic Islands)」と呼ばれています。 タイタンの地形はレーダーでのみ観測されているため、魔法の島の正体については “電波を反射しやすいもの” という以上のことは分かっていません。これまでの予測では「湖の波による反射」「湖に浮かんでいる有機化合物の塊」「湖水の中の有機化合物による濁り」「窒素ガスによる気泡」といった説が提唱されていました。
■魔法の島の正体は有機化合物の “軽石”
Yu氏らは、タイタンの魔法の島がメタンの湖に浮かぶ固体の有機化合物ではないかと考え、タイタンの低温環境で生成される固体の有機化合物の種類や形状がメタンの湖に浮かぶものかどうかを調査しました。 まず、単純な計算では、どのような種類の有機化合物もメタンの湖に沈んでしまうことが分かりました。有機化合物の固体はどれも液体のメタンよりも高密度であり、そのうえメタンは表面張力が低いためです。一方で、メタンにはすでに大量の有機化合物が溶け込んでいるため、メタンの湖に接触した有機化合物が溶けて消えることはないことも明らかにされました。 そこでYu氏らは、有機化合物の塊が密度の低いスポンジのような多孔質構造になっている可能性について検討しました。そのままでは沈んでしまう有機化合物の塊も、内部に空隙が多ければ密度が低下するのでメタンの湖に浮かぶ可能性があります。多孔質な材料で発生する毛細管現象は表面張力を増大させるため、追加の浮遊力を与えます。さらに、一度は湖に浮かんだ塊も時間が経てば空隙にメタンが染み込むことで密度が増加して沈んでしまうため、魔法の島が一時的な存在であることの説明になります。