「エディアカラ紀」の地磁気は弱かった 生物が大型化した理由の可能性
■地磁気の弱さが生物の進化を促した可能性
Huang氏らは、エディアカラ紀に地磁気が弱かった時代が長期間続いたことが、生命の進化を促したのではないかと考えています。その理由はやや複雑です。 太陽を公転している地球には、太陽光だけでなく太陽風のような高エネルギーの荷電粒子(電気を帯びた粒子)もやってきます。地球の大気に衝突する荷電粒子は分子に運動エネルギーを与えることで、分子が地球の重力を振り切って宇宙へと逃げていく原因となります。 一方で、荷電粒子は磁場と反応するため、地磁気は荷電粒子と大気の衝突を防ぐバリアーの働きをします。このため、一般的に荷電粒子と大気の衝突は地磁気が弱い極地に限られます。余談ですが、荷電粒子と大気分子との衝突は光を発生させます。つい先日発生した大規模な太陽フレアのような例外を除き、オーロラを見られる場所が高緯度地域に限られるのはこれが理由です。 エディアカラ紀の地磁気が極端に弱かったとすれば、現在と比較して多くの荷電粒子が大気に衝突していたと考えられます。この時に真っ先に逃げ出すのは水素のような軽い分子です。水素は酸素と反応して水になる物質ですから、大気中の水素が多ければそれだけ大気中の酸素が豊富になるのを妨げますし、反対に大気中の水素が少なくなれば相対的に酸素が残りやすくなります。 このような水素と酸素の量の関係は、大気と接している海水でも同じ状況となります。地磁気が弱かったエディアカラ紀に大気中から水素が逃げ出せば、海水中の酸素が豊富になったはずです。酸素を使う呼吸(好気呼吸)は酸素を使わない呼吸(嫌気呼吸)よりもずっとエネルギー効率が良いため、生物が複雑化・大型化するきっかけとなります。以上のことから、エディアカラ紀に地磁気が弱くなったことは、エディアカラ紀に生物が進化する原因となった可能性があります。 今回の研究によってエディアカラ紀の地磁気の強さが判明したことで、論争のある当時の海水中の酸素濃度については豊富だったことを支持する証拠が見つかったことになります。エディアカラ紀の謎は多いため、研究はまだまだ続くことになりますが、生命の歴史における大きな謎についての大きな手掛かりが得られたかもしれません。 Source Wentao Huang, et al. “Near-collapse of the geomagnetic field may have contributed to atmospheric oxygenation and animal radiation in the Ediacaran Period”. (Communications Earth & Environment) Lindsey Valich. “Did a magnetic field collapse trigger the emergence of animals?”. (University of Rochester)
彩恵りり / sorae編集部