テレビ局特派員は「トランプ圧勝」をなぜ予測できなかったのか 「高級レストランで取材」「家も車も会社持ち」では“リアルなアメリカ”はわからない
特派員の特権的な生活とは?
特派員とはどこの局も給与とは別に「特派員手当」と称したドル建ての手当てが現地の銀行口座に入金される。局によって異なるが、結構な額になることが多い。「特派員手当」で生活し、日本の口座に入る本給はそのまま手つかず。単身者の場合には現地口座にドルを多く蓄えて帰国をした者も少なくない。かつては「特派員になれば家が買える」と言われたのはこのような理由だ。 現在は歴史的な円安水準ということで「特派員が好待遇というのは昔の話だ。いまや貯金を取り崩して生活している」とよく耳にする。ある特派員経験者も「このままでは特派員は生活ができないので、手当の増額を本社に陳情した」という。しかしニューヨークやワシントンDC中心部の数十万円はする住居はもちろん会社負担である。アメリカでは運転手が付くか、付かない場合には自ら運転することにはなるものの、車は支局の経費で維持されている。特にアメリカ駐在の場合には子弟を帯同させているケースが多く、平日は現地校に入れて、バイリンガルに育成しようとする特派員も多い。これに対しては会社都合の転勤であるという理由から「教育手当」として学校の授業料が払われる局も多い。教育熱心な特派員たちは、日本に戻ってから困らないように日本語学校や受験の予備校とのいわゆるダブルスクールを選ぶこともある。円安で生活に困窮しているというより、高い水準の教育にお金をかけられる恵まれた生活にみえる。加えてある局では妻子の一時帰国や、特派員自身の健康診断のための一時帰国の費用なども会社負担であるという。特派員はやはり恵まれていると言えるのは間違いない。
エリート特派員のその後
日本に帰国してからはデスクや解説委員といったポジションを得て、部長への道を走ろうとする。もちろんその先の役員を目指す者もいる。これを見越して一時帰国のたびにお土産を山のように運び、幹部に配り歩いて、帰国後のポストの陳情をしている特派員も少なくないという。本社から海外出張に来た幹部を自宅に招き、家族ぐるみで歓待することに熱心な特派員もいるそうだ。「会社員」としての特派員である限り、アメリカの草の根が見える取材はできず、予測は当たらない。 テレビ局が「トランプ圧勝」を見誤ったのは、必然と言えるのだ。 多角一丸(たかく・いちまる) 元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト デイリー新潮編集部
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