王会長が4年前に予言した甲斐の覚醒。鷹日本一の裏に育成力と将来ビジョン
ソフトバンクが圧倒的な力を見せつけて1敗1分からの4連勝で2年連続9度目の日本一になった。3日、マツダスタジアムで行われた日本シリーズ第6戦は、息詰まる投手戦となったが、1回、2回と甲斐拓也が“甲斐キャノン”で広島の機動力を封じ込め、バンデンハーク、武田翔太、嘉弥真新也、森唯斗の4人で完封リレー。短期決戦を知り尽くす工藤公康監督の采配も冴え渡り、スクイズで先取点、不振の松田宣浩に代え、三塁で先発起用したグラシアルが追加点アーチを放つなど磐石の野球でリーグ2位からの下克上に成功した。 今シリーズもシーズン同様に故障者が続出、マツダスタジアムに乗り込んでの最終局面でもデスパイネ、今宮健太、石川柊太らを欠いたが、総合力で勝利を奪いとった。 工藤監督は「満身創痍の中、突っ走ってくれて、こういう形で日本一になれて幸せ」と優勝インタビューで語った。日本一の裏にあったのが、工藤采配に応えた選手層の厚さであり、それを作りあげた球団の育成力と将来ビジョンだ。 6度連続盗塁刺でシリーズ記録を更新してMVPに選ばれた甲斐は、2010年の育成ドラフトで大分の楊志館高から6位指名された選手。高校時代に甲子園出場はないが、通算25本塁打を誇り地元の“九州枠”の選手として目をつけられた。 この年のドラフトでソフトバンクが1位入札したのは、“ハンカチ王子”こと斎藤佑樹だったが、くじに外れて習志野高の大型捕手、山下斐紹を1位指名した。その山下が楽天へトレードに出され、その年のドラフトで97人中95人目の指名選手だった甲斐が、MVPを取るのも、なんとも運命的だ。 実は、4年前の宮崎キャンプで王貞治会長は、筆者の直撃インタビューに答え、入団4年目にして背番号が「130」から「62」に変わり支配下登録されたばかりの当時、まだ登録名が「拓也」だった甲斐のブレイクを予言。将来的な球団ビジョンをこう熱く語っていた。 「うちは、育成の選手を23人も保有している。九州という地元に目を向けて、内側から選手を育てていきたい。今年は、甲斐拓也という育成出身の捕手が出てきた。彼も大分かな。小さいけど、肩も強いしパンチもあって非常に楽しみな選手。外から補強した戦力で優勝を狙いながら、こういう内側から、生え抜きの選手を育てていくのが理想なんだ。甲斐拓也にしろ、鶴岡慎也の経験から学ぶものがあると思う。まだまだ物足りないけれど、柳田悠岐という可能性を秘めた選手もいる。2年目の東浜も力をつけてきた。そういう若い選手を育てながら、理想的なチーム編成にしていければいいと思う」