王会長が4年前に予言した甲斐の覚醒。鷹日本一の裏に育成力と将来ビジョン
2014年のシーズンを前にソフトバンクは大補強を仕掛けていた。孫正義オーナーから「3年ぶりの日本一奪回」の厳命を受けた球団フロントは、FAで中日から中田賢一、日本ハムから鶴岡慎也を獲得。外国人も日ハムからウルフ、阪神からスタンリッジ、西武からサファテ、オリックスから李大浩、メジャー凱旋の岡島秀樹と札束にモノを言わせて計7人を獲得した。結局、オリックスとのデッドヒートを制したソフトバンクは、この年に3年ぶりにリーグ制覇して、日本シリーズでも阪神を4勝1敗で破った。 王会長は、「お金をかけて外から選手を補強していくというチーム編成は、いびつなんだ。昔、どこかのチームがやっていたが(笑)、できれば、こんなことはしたくなかった。しかし、優勝から2年離れている。何がなんでも勝たねばならない」と“金満補強”と批判された方針を自己批判しながらも、きっちりと4年後を見据えた育成の種を撒いていたのである。 その4年前の王監督のコメントの中に出てきた柳田は、当時、まだ7番打者だったが、オープン戦からブレイクの兆しを見せて、この年にレギュラーを獲得した。 この2014年は、今年の日本一へとつながるキーポイントとなる年で、この年がルーキーイヤーとなったドラフト1位が加治屋蓮(JR九州)、2位が森唯斗(三菱自動車倉敷オーシャンズ)、4位が上林誠知(仙台育英)で、育成ドラフト1位が石川柊太だった。 今シリーズで光った川島慶三は、この年、7月のトレード期限ぎりぎりにヤクルトとの2対2トレード(川島、日高亮―新垣渚、山中浩史)で獲得した選手である。 ちなみに甲斐が育成ドラフトで6位指名された2010年のドラフトの2位が、4番の柳田であり、6人指名した育成ドラフトの4位が千賀滉大で、5位が故障でシリーズ出場はできなかったが、シーズン後半に二塁の定位置を奪った牧原大成。 またその翌年の2011年には今シリーズで第2先発として“影のMVP級”の活躍をした武田翔太が宮崎日大高からドラフト1位、左のワンポイントで活躍した嘉弥真新也もその年の5位指名。彼も沖縄の八重山農林高出身の“九州枠”の選手だ。 ソフトバンクは、毎年、資本力に任せた補強で優勝を狙いながらも、数年後を見据えて生え抜きを内側から育てるという確固たる球団ビジョンを貫きぶれなかった。 甲斐は、その2014年に初の開幕1軍切符を手にしたが、チームが捕手2人制を採用したため、すぐに2軍降格となり、結局、試合出場は1試合。翌年も同じく1試合出場に終わったが、2軍で着実に力をつけ登録名を「拓也」から「甲斐拓也」に戻した2017年にようやくプロ初スタメンをゲットして103試合に出場するなどブレイク。今年のシリーズMVP獲得へとつなげた。 王会長は「(MVPは甲斐だと)思っていたんだけども、ちゃんと見てくれていた。他の選手の励みになる」と、甲斐のMVP獲得に感慨深気だった。 工藤監督の“神采配”を可能にする分厚い選手層を作りあげたソフトバンクの球団としての編成力、育成力が2年連続9度目の日本一を奪いとった真の理由なのかもしれない。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)