『夜明けのすべて』瀬尾まいこさん初の絵本。100年後に思いをはせながら、「またあした」が当たり前の世界にしたい《インタビュー》
――そんななか、主人公の友達のサクヤくんは、画用紙を真っ黒に塗りつぶしましたね。100年後なんか地球は滅びている、お先真っ暗だと言って。 瀬尾 まあ、クラスに2~3人はこういう斜にかまえた子がいるだろうな、と。でも、みんなと一緒にキラキラした絵を描けない子たちだって、心底未来に絶望しているかといえばそういうわけじゃないと思うんですよ。本当に、希望のない未来が来てほしいとも思っていない。先生の言うとおりにキラキラした絵を描くのはちょっといやだし、そもそも上手に描く自信はない。だから「現実なんてこんなもんだ」という態度をとっちゃう子は、教室に何人かいるはずだと。 ――瀬尾さんって、子どもたちの感性を同じ目線で理解されているような感じがありますよね。 瀬尾 いやいや。ただ、子どもが好きなのと、うちの子が小学校に入ったばかりのころに、PTAの生活安全部で通学路の周辺をうろうろする役割を担当していたんですよ。そのとき、子どもたちといろんな話をして、何が好きかいっぱい教えてもらいました。ものすごく些細なことだけど、みんな、休み時間が大好きなんだなあとか、どうしていつの時代も揚げパンにあれほど夢中になるんだろう、とか。 ――ああ、だから、主人公も「給食の揚げパンが出る回数が2倍になる」という未来の夢を語るんですね。 瀬尾 そう。揚げパンの日は、おかわりの行列ができて、足りないときはじゃんけんになるんですって。砂糖をまぶしているだけなのに、なぜかみんな、必死になるんですよね。 ――ちなみに瀬尾さんは、100年後はどんな世界だと思いますか? 瀬尾 そうですねえ。私、傘がきらいなので、はやくそれに代わるものが発明されてほしいんです。雨が降ったらビュンって膜かなにかに覆われて濡れずに済むようなシステムが、100年後といわず、そろそろ生まれるといいなと思っています。あとは、本文中にもありますけど、海を歩けたらいいですよね。私、まったく泳げないので。もし歩けるようになったら海も飛行機に乗るのも怖くなくなります。ただ、空飛ぶ靴はそんなにほしくないな。陸地を歩くほうが好きだから(笑)。 ――そういう未来を想像する主人公のもとに、宇宙人のような未来人のような存在が現れる場面も、よかったですね。絵本ならではっていう感じがします。 瀬尾 そうなんですよ。現れる伏線として、「あれはもしかしてタイムマシンだったのかも」と思える絵が、それ以前に描かれているのもいいですよね。私もあとから気づいて、なるほど! と楽しかったです。そういう楽しみ方も、絵本はできるのだなあ、と。今回の絵本刊行にあわせて、子どもたちに読み聞かせをするイベントを何回かさせてもらったんですけど、その絵に気づいた子が「あれなんだったの?」って食いついていましたね。
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