第154回 芥川賞受賞者・滝口悠生氏の記者会見(全文)
なぜお通夜の話にしたのか?
司会:では、その、真ん中後ろの眼鏡の方に。 日本経済新聞:日本経済新聞のミヤガワと申します。おめでとうございます。 滝口:ありがとうございます。 日本経済新聞:今回の、2点、質問がありまして、1点は、今回の小説は通夜で一族が集合する小説ですね。それで、そこでそれぞれの一族の人たちの人生が語られていくという形なんですけども、このアイデアっていうのはどういう形で、なぜこれをやろうと思われたか。それが1点、もう1つが、先ほどの選考の発表で、奥泉さんが非常に語りが上手だと。それで空間、時間の広がりをつくり出してるというような選考の理由がございました。先ほどもありましたが、こういう語りのうまさというのをどういう形で滝口さんは学んでいったか、あるいは習得していったか。過去の文学作品などがあれば、それを教えていただければと思います。以上です。 滝口:1点目は、なんでお通夜の話にしたかっていうのは、お通夜の話をっていうのは事前にはなかったことです。で、今回の作品を書く前に1つだけ目標というか、これをしようっていうのは、これまで書いたものよりも少しでも長いものを書こうということがあって、で、そのためにどうするといいかなということで、人を大勢出そうというふうに思って、で、そのための場としてお通夜というのが出てきたという感じですね。で、いいですかね、1点目は。 2つ目は、その語りのことについては、選考作品とかその批評とかはいろいろあるんですが、これまで書いてきたものっていうのが、自分が小説を書く動機、モチベーションとして大きかったのが、視点、語りの中にある視点とか認証とかのことだったんですけど。今回の作品はそこを少し自分の書く作業から解放してというか、これまではいろいろもう少しかちっと、かちっとこう、そこの構造というか、語りの構造、仕組みみたいなものをかちっと組んで書いてるところがあったんですけど、ちょっと今回はそういうやり方ではなく、そこは少し緩めて。 で、小説の語りを進めることっていうのは、いろんな動力となるものがきっとあるわけで、何をっていうわけではないんですけど、小説っていうのはどういうことでも語れるし、どういうふうにも語れるっていうものだと思うので。で、その語りが、なんか、いろいろ融通無碍な感じというか、その力を信じて書いてみようっていうのが、今回これまでとちょっと違う、自分の書くときの意識としては違ったことですね。 日本経済新聞:その際、参考にする作品、過去の作品とかはなかったんですか。 滝口:書くに当たって引いたものとかっていうのはない、これっていうのはないんですけど、近代の自然主義の小説とかっていうものが、現代になってきて少し今言ってたような構造とかが、かちっとしてきたっていう流れがあると思うんですけど、それをまた別の形で崩して、で、何か新しいというか、今書く意味があるような形ができないかっていうことですかね。 滝口:そうですね。布団とか、っていうのがあったりとか。 日本経済新聞:ありがとうございました。 司会:続きまして、質問おありの方、いらっしゃいますでしょうか。はい、じゃあ真ん中の眼鏡の方。 中日新聞:もう1つすいません。今回、芥川賞を取ったっていうことが、やっぱりご自身、これまでいわゆる1人になって、書くようになって、やっぱり大きな自信になる賞なのか、それとも新しいまた、場所を選ばれるっていうことで、どんな受け止め方をされました? 今日、文学振興会の方から連絡があって。 滝口:率直に言うと、そんなに今回の受賞のほうで、今のところですけど、何か大きな心境の変化みたいなものはないです。で、ただ必ず自信になるときっていうのはあると思うし。ただ、次の作品を、これまでもそうだったんですけど、次の作品を書くっていうときに、やっぱり前に書いたこととか、前に読まれたことっていうのは、自信にしながらもまた別のこととしてやらないといけないっていう意識はあって、それはあまり変わらないかなというふうに思います。 司会:よろしいでしょうか。ほかにご質問の方。じゃあ真ん中の眼鏡の方に。 テレビ埼玉:テレビ埼玉のハラダと申します。埼玉県で育ったということで、作品をつくる上で、育ったということが何か影響を与えたことはあるんでしょうか。 滝口:ごめんなさい。あんまりないと思います。ないというか僕が、これですってすぐに言えるようなことっていうのはない、特に思い浮かばないんですけど。育ってきた時間をそこで過ごしたっていうことは間違いないので、ないはずはないんですけど、具体的にこれ、とかっていうのはあんまりない。 テレビ埼玉:追加で、その育った埼玉県への思いっていうのを聞かせていただいてもよろしいですか。 滝口:埼玉県の思い。埼玉県への。埼玉県への思い。 テレビ埼玉:そうですね。ふるさとではないかもしれないんですけれども。はい。なければ大丈夫なんですけど。 滝口:ないですね。特に言う、ここでこれですって言うこととしては、ないです。 テレビ埼玉:ありがとうございました。 司会:そろそろ最後の質問ぐらいにしたんですが、よろしいでしょうか。もし、ご質問おありの方いらっしゃいましたら。 滝口:埼玉は好きですよ、でも。嫌いな、嫌いなわけでは全然ないんですけど。はい。 テレビ埼玉:ありがとうございます。 司会:ほかにご質問の方、いらっしゃいますか。ではよろしければ、滝口さんの会見はこれにて終わりにさせていただきます。ありがとうございました。 滝口:ありがとうございました。 (完)