結論ありきの温暖化対策(上): 「国民は蚊帳の外」と気候専門家
■科学に基づく気候目標を掲げ、議論を尽くした気候政策を
政府はなぜ、RITEのシナリオや意見ばかりを取り上げるのだろうか。バランスを欠く情報提供には疑問を覚える。 また政府からは、カーボンバジェットの現状をどう捉え、世界における日本の責任をどう考えるのかの説明がないことなども、不透明さを否めない。 気候変動への対応には、常に最新の新しい科学を取り入れて対応しないといけない。その機能を持たない現状の政府の組織や機能、システムには大きな課題がある。 気候目標の策定には、最新の科学に基づき、残余カーボンバジェットを使い切ってしまわないよう、時間軸をにらみながら専門家からの助言を得て検討することが不可欠だ。 一方で、目標の実現に向けてどういう対策や政策を取るべきかについての議論が大きく欠如していることにも、問題を提起したい。カーボンプライシングのあり方や、再エネ促進策、石炭火力の段階的全廃、住宅や建築物の規制の強化といった施策の裏付けがないまま、数字の議論だけが行われていることは、極めて心許ない。 また、日本はG7の一員として、「1.5℃目標への整合」「石炭火力の早期(2030年代)での段階的廃止」「2035年までの電力システムの脱炭素化」を約束したが、エネ基の掲げる2040年の発電構成案は、再エネ4~5割、火力3~4割、原子力2割だ。 なかでも、風力発電の割合は4~8%止まりで、下限の数値にとどまれば、2030年と同水準でしかない。島国・日本でポテンシャルの高い洋上風力で新たな産業を興すチャンスをつかもうとしないことは、不思議ですらある。 原子力についても、全く国民との間で議論が行われることなく、「原発への依存度を低減する」という方針の削除がいとも簡単に決められていくことについて大きな問題意識を持っている。
■政治のリーダーシップの欠如と、誰も責任を取らない政策決定システム
これだけ厳しい現実が迫り、若い人たちの未来が奪われることになるかもしれないというギリギリの時に、野心的な目標を打ち出そうと力を尽くすことこそが今、求められている。 NDCの政府案は、1月26日までパブリックコメントを受け付け、最終的には石破首相の下、温暖化に関する国の最高意思決定機関である地球温暖化対策推進本部が決める。 ところが、案を取りまとめた際の同本部会議の開催はわずか10分であった。ここに、気候変動に対する政治のリーダーシップが存在しない残念な状況が浮き彫りになっている。 この重大な責任を伴う意思決定は、誰がどのように行ったのか。政府の中の責任の所在があいまいで、結果的に誰も責任を取らない日本の政策決定システムの弊害は大きい。
■今こそ、国民を巻き込んだ開かれた議論を尽くすとき
パブリックコメントを経て、政府は2月の国連への提出を目指している。だが、多くの論点は、国民からも意見が上がってくるだろう。 期限を守ろうとするあまりに、議論を拙速に切り上げるのではなく、重要な決定だからこそ、提出を引き延ばしてでも、最終決定前に、国民を巻き込んだ開かれた議論を尽くすべきではないだろうか。(談)