結論ありきの温暖化対策(上): 「国民は蚊帳の外」と気候専門家
■政府案は、どこが問題なのか
世界の科学者らで構成する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気温上昇を50%の確率で1.5℃に抑えられる値の範囲を示す。それによると、世界全体の2035年の中央値は「2019年度比で60%削減」、日本の基準年である2013年度比では66%の削減が必要だ。 IPCCが、この数値を発表したのは2021年だ。2020年のまでの排出量をベースとしており、当時、世界が温暖化を1.5℃以内に抑えるためには、あと5000億トンの排出が許されていた。 しかし、炭素予算(カーボンバジェット)は、最新のUNEP(国連環境計画)の報告では2000億トンにまで減っている。2023年の世界の排出量は単年で500億トンとあり、このペースではわずか4年でバジェットを使い切ってしまう。 これだけ厳しい状況にあるのに、政府案は、世界目標の中央値を下回る、野心を欠く目標を掲げている。 もう一つ、審議会で論点となったのは、政府案が「オーバーシュート」を許容するシナリオで作っていることだ。オーバーシュートは、「目標地点が過ぎた状態」を意味する言葉で、パリ協定で目指す「1.5℃」以上、気温が上がった状態を指す。 政府案のベースを作った経産省の外郭団体・公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE、京都府木津川市)は、審議会で「日本がオーバーシュートしない前提で目標を策定しても、排出量がもっと大きい米国や中国、インドの目標が野心的にならない限り、世界全体ではオーバーシュートしてしまう」と説明した。 世界全体の排出量をさらに抑えない限り、オーバーシュートしてしまうのは事実だ。だが、「1.5℃目標」の達成が秒読みで遠のきつつある中、むしろより安全側に立って対策を強化すべきところを、他国を理由に、日本が緩い目標に甘んじて良い理由にはならない。 むしろ今こそ、先進国の責任として、さらなる削減努力が必要だ。 世界の排出量と気候変動対策を追跡する国際環境NGOのクライメート・アクション・トラッカーは、日本の目標が1.5℃目標と整合するには、「2013年度比で78%の削減」が必要だと提示する。 世界に責任を果たす目標として、これに近い水準で、最低でも66%を下回らない水準で設定されることが必須である。