ライター武田砂鉄が検証する、小池百合子都知事の「ダイバーシティ」
東京都知事選(7月7日投開票)に3選を目指して出馬する小池百合子。ライターの武田砂鉄は、小池が掲げる、聞こえのいい「ダイバーシティ」に疑問を呈す。 【写真を見る】3選を目指す現職知事に挑む、蓮舫、石丸伸二、田母神俊雄!
小池百合子のスローガンには要注意
どんな選挙のどんな候補者からも、選挙期間中には「いいこと」が飛び交う。「いいこと」を比べ、どちらが本当に「いいこと」を言っているかを判断する。討論会を見て、選挙広報を読み比べて、誰の「いいこと」に納得できるかを判断する。もちろん、ひとまず言うのは誰にでもできるので、実行能力があるのかどうかを疑う。提示された「いいこと」が自分の考えと完璧に合致するはずはなく、減点方式にはなるものの、少なくとも問いかけに応えてもらうのが最低条件になる。 8年間も東京都知事を務めてきた小池百合子は、ずっと「いいこと」を提示し続けている。だが、それに続く、「問いかけに応える」がずっと不十分だ。Aという議題について聞いても、議論を勝手に横にそらしながらBについてCと答えたりする。その表情が堂々としているので、画像や一瞬の映像ではちゃんと応えているように見える。選挙期間中は「いいこと」の提示が続くので「問いかけに応える」が軽視されがちだが、8年間もその場にいたのだから、この人が「問いかけに応えてこなかった」点って、改めて厳しくチェックされなければならない。 今回、小池は「東京大改革3.0」と銘打った公約を出しているが、その前、つまり「2.0」からどのように変わったのか、何を達成できなかったのかをチェックしない限り、「3.0」は「6.0」でも「128.0」でも可能になってしまう。「2.0」から「3.0」にかけて、小池が打ち出した3つの「シティ」、「セーフシティ」「ダイバーシティ」「スマートシティ」は共通している。それは果たして達成できていたのか。 この原稿では「ダイバーシティ」、多様性を意味する言葉に絞って考えてみたい。近年、方々で聞くようになったが、「ダイバーシティ」は人種・年齢・性別・能力・価値観など、様々な違いを持った人たちが同じ社会の中で共存し合えるようにする、という意図で使われる。この言葉を文字通りに達成するのは簡単ではない。今回の公約集にも「多様なひとがもっと!輝く東京へ」とあり、子育て、グローバル人材、インクルーシブな東京へ、などと強調されている。 しかしながら、小池の考え方って、「ダイバーシティ」なのだろうか。関東大震災発生後に朝鮮人が虐殺され、その犠牲を悼むため、毎年9月1日に行なわれている朝鮮人犠牲者追悼式典に追悼文を送付するのを小池は拒み続けている。毎年の言い分はこうだ。「犠牲となったすべての方々に哀悼の意を表しており、個々の行事への送付は控える」。地震で亡くなった人と、虐殺で亡くなった人を一緒くたにして、全員追悼しておりますので、という主張は受け入れがたい。それでも選挙になると「多様な人がもっと!」などと「いいこと」を言うのである。 デマによって特定の人々を殺めてしまった歴史を直視しない首長に、「ダイバーシティ」は語れないだろう。手元に、2013年、小池が自民党に在籍していた頃に刊行した編著『女性が活きる成長戦略のヒント vol.1 20/30プロジェクト。』(プレジデント社)と題した本がある。当時、自民党が掲げていた、2020年、日本のあらゆる分野で指導的地位の女性の割合を30%以上にするという公約について訴えかける本で、その目標は結局達成できず、2020年に入ってから平然と延期されてしまったが、この旗振り役となっていたのは小池だった。 なにも、10年前の本に記してある記載をほじくり返して突きつけたいわけではない。そこに書かれている考え方が今に続いている、と疑っている。本書で小池が、「急速な少子高齢化によって労働力が減少し続け、深刻な労働力不足に直面する日本。誰がこの国を支え、動かしていけばいいのでしょうか」と問いかけ、「現有の労働力にプラスできるのは、女性、シニア、外国人の3つのチョイスしかありません」「早々にリタイアを望む人は別にして、シニアに働き場所を確保し、年金の受給者というよりは納税者としてがんばってもらうのもひとつですが、それだけではなかなか労働力は増えません」(註1)と続けている。