ライター武田砂鉄が検証する、小池百合子都知事の「ダイバーシティ」
小池百合子のダイバーシティは単なるスローガン?
女性、シニア、外国人を並べて、3つのチョイスのうち、どれがいいでしょうと比較するのはだいぶ乱暴だが、ここからこのように展開する。驚いてしまう。 「では、外国人を受け入れることを日本社会が許容するのでしょうか」 「日本の持っているよき価値観を守ることは大切です。『女性は家庭にいてほしい』と願う男性が多いのも事実です。では、『外国人をこれ以上受け入れること』と『日本の女性が社会に出ること』、どちらが日本社会の価値観を保てるのでしょうか。『女性は家庭に』『外国人はダメ』というのは簡単ですが、どちらかを選ばなければならないという瀬戸際にある日本にとって、答えは自ずと出ているように思います」(註1) 女性と外国人を天秤にかけ、働いてもらいたいのは外国人じゃなくて女性ですよね、と言っている。この本のオビの袖の部分、つまり、この本を特徴付けるフレーズなどを掲載する場所には、「なでしこを雇用するか 外国人を雇用するか」と書かれている。 刊行の2年前にサッカー女子日本代表がW杯で優勝し、「なでしこJAPAN」が知られるようになったのを受けて「女性=なでしこ」と称しているが、この女性の扱い方、つまり、外国人と比べたら女性でしょうという考え方の人が、「ダイバーシティ」なんて使えるのだろうか。 先述の追悼文送付見送りを現在に至るまで続けていることからわかるのは、この人の「ダイバーシティ」はスローガンだけで、スローガンを剥がしたところには強い差別心が残っている事実。「いいこと」発言が溢れる現在だからこそ、ちゃんと剥がして内実を問わなければならない(2024年6月26日記)。 ※註1『女性が活きる成長戦略のヒント vol.1 20/30プロジェクト。』(プレジデント社)より引用 武田砂鉄 1982年生まれ、東京都出身。 出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年では、ラジオパーソナリティーもつとめている。『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫) で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『べつに怒ってない』(筑摩書房)、『父ではありませんが』(集英社)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。 編集・神谷 晃(GQ)