か細い声で3回繰り返した「アイ・ラヴ・ユー」 最愛の夫ピート・ハミルは集中治療室のベッドで
人工透析のための通院
2020年8月1日土曜日、朝から太陽の照りつける暑い日だった。ピートにしっかりマスクをさせて、大きな枕二つを鞄に詰め込んで、病院へ出かけた。3時間もの人工透析の間、椅子の上で身動きできないピートには大きな枕が二つ必要だった。 ウーバーで車を呼び、メソディスト病院へ着くと、待合室には数人の患者がいてしばらく待たされた。ようやく呼ばれて透析の部屋に入ると、顔なじみのアンナがいつものようににっこりして、「具合はどうですか」と聞いてきた。 白人の高齢者はピートとアンナだけ、もうひとり30代くらいの若い白人女性がいたが、あとはラテン系や黒人の患者ばかり22名が一部屋で治療を受ける。 この日は師長(チーフ・ナース)のノーマに会えたので、「なんだかすっかり弱ってきたみたいで心配」というと、ノーマはわかっているというふうに大きく頷いた。ピートは血圧が低くなってきたため、酸素マスクをつけて透析することが増えてきたが、この日は必要なかった。
新鮮な食材で、ランチの下準備を
透析が始まる頃になると「後で迎えに来るわね」とピートに声をかけて、表へ出た。土曜日はプロスペクト公園にグリーンマーケットが立つ。病院から真っ直ぐ公園に出て、朝市の列に並んだ。 コロナ禍のマーケットには大きな囲いができて入場者を規制していた。6フィート(約1.8メートル)間隔で並び、入ってからも他の客に近寄らないように買い物しなければならない。とはいえ、近隣の農家がこうしてマーケットを開いてくれるのは助かった。新鮮で美味しいし、季節のものが手に入る。 この日も真っ赤なトマトやトウモロコシ、ルッコラ、ビーツ、茄子などたくさん買った。卵も質が良いものだし、新鮮な花束も並んでいる。この日はピートの好きなひまわりを買い、ロングアイランドからくる漁師が開く「ブルームーン」という店の列に並んだ。ここはお刺身でも食べられるホタテ貝やマグロ、白身の魚など冷凍でない鮮魚を売っている。 買い物カートに入りきらないほどの食材を積み込んで、我が家へ帰り、荷物を下ろしてランチの下準備を始めると、すぐに病院へ向かう時間になっていた。 待合室で、ピートは歩行器に座ってわたしのことを待っていた。 「遅くなっちゃってごめんなさい」 再びウーバーを呼んで帰路に着く。そこまではいつもと変わらぬ土曜日だった。