特殊詐欺グループに“人気”の東南アジア…なぜ拠点に? グループ元リーダーが語る「ワケ」
■東南アジアを目指すワケ…「トレーニングセンター」も
約382億3900万円――これは23年1月から11月までに日本全国で特殊詐欺で、だましとられた総額だ。 捜査関係者は「国内で1か所に集うかけ子グループは皆無。海外拠点か移動型が主流だ」と話す。その海外拠点の中心は、東南アジアだ。なぜ特殊詐欺グループは東南アジアに行きたがるのか。 東南アジアは、日本に比べて家賃が安い上に、現地当局への“ワイロ”がまかり通る。通信に欠かせないSIMカードも簡単に手に入るし、日本との時差も少ない。さらに、同じアジアの日本人が生活していても目立たないといった利点があるという。そしてなにより、日本の捜査機関が摘発するのが難しい。 また、“闇バイト”の規制が厳しくなる日本と裏腹に、海外拠点は“リゾートバイト”として求人をしているため、比較的、人が集まりやすいという。 しかし、そうやって人を集めても、素人集団が機能するのかという疑問が残る。 関係者によると“リゾートバイト”として東南アジアに来たかけ子の予備軍は、かけ子の「トレーニングセンター」に入って、まず学ぶ。そのトレーニングセンターでは、かけ子予備軍のパスポートを取り上げ、簡単に帰国できないようにするという。
■「捕まって、ほっとした」…かけ子に“葛藤”も
トレーニングを経て実際に犯行に及ぶかけ子の中には「やめたくても、やめられない」という葛藤を抱く者もいる。カンボジアで摘発されたかけ子のうち、数人は「捕まったのは嫌だったが、正直、ほっとした」と供述した。 また、マレーシアで摘発された特殊詐欺グループとみられる日本人のうちの1人は「仕事があると言われてマレーシアに来たら、特殊詐欺だった」と親に連絡し、大使館が現地警察に情報を提供。摘発に至った。 一度手を染めたら、なかなか抜け出すことができない特殊詐欺グループ。「報酬が良いから」と安易に足を突っ込んでから後悔しても、取り返しはつかないのだ。
■カンボジアで暗躍する“仲介人” 捜査当局が摘発目指す
23年はカンボジアで3件のかけ子グループが摘発され、日本に移送された。4月、リゾートホテルを拠点にしていた19人の男を警視庁などが逮捕。5月にはホテルを拠点にしていた7人の男を現地当局が摘発し、そのうち3人を佐賀県警が逮捕。さらに11月には、冒頭のアパート1棟を借りて犯行に及んでいた25人の男が、埼玉県警などに逮捕された。 関係者によると、カンボジアには特殊詐欺の“仲介人”がいるとみられている。表向きは飲食店を営んでいて、メンバーのビザや、かけ場の賃貸物件の世話をするという。日本の捜査当局は、実際に詐欺に手を染めたメンバーだけでなく、“仲介人”も摘発するべく目を光らせている。 警察庁はICPO(=国際刑事警察機構)の会議や国際会議の場で、海外当局へ連携の呼びかけを強めていくとしている。また、各都道府県警に24年4月から「特殊詐欺連合捜査班」を設置し、受け子などの捜査を集中的に行う組織を新設する。 一般市民の良心につけこみ、カネをだましとる卑劣な特殊詐欺。捜査当局は特殊詐欺グループの根絶に向け、2024年も捜査・対策に全力を注ぐ。