特殊詐欺グループに“人気”の東南アジア…なぜ拠点に? グループ元リーダーが語る「ワケ」
2023年は特殊詐欺グループの海外拠点の摘発が相次いだ。特に東南アジアは日本の捜査当局の摘発も簡単ではなく、詐欺グループのまさに“楽園”。取材を進めると、かけ子の「トレーニングセンター」や“仲介人”の存在なども浮き彫りになってきた。 (NNNバンコク支局 田中純平) 【画像】「見られたら恥ずかしい。一生言わない」今も続く被害女性の後悔 一度は断るも…“ルフィ”グループの詐欺被害に
■特殊詐欺グループの「アジト」とは…東南アジアで拡大
23年11月、カンボジアの首都プノンペンにある地上9階建てのアパートを訪ねた。部屋数は38。プールにジム、サウナもついている。そして、メコン川を望む広い屋上デッキでは、バーベキューも楽しめるという。 特殊詐欺グループは、このアパート1棟をまるまる借り上げ、アジトにしていた。摘発されてから約3か月たっていたが、部屋にはSIMカードの台紙やニンニクなど、アジトにしていた“生々しい痕跡”が残されていた。 23年は、こうした日本へ詐欺の電話をかける、いわゆる「かけ子」の海外拠点が多く摘発された。フィリピン、カンボジア、ベトナム、タイ、マレーシア…。かけ子の拠点は東南アジア各国に広がっている。 摘発が増えた理由について、日本の捜査関係者は「海外当局の動きが急に良くなったわけではない。拠点の数が増えたから、その分、摘発も増えたのではないか」と話す。 一方で、私たちは特殊詐欺グループが海外を拠点にするのは、ここ数年に限った話ではないという証言を得た。
■海外拠点は「10年前から…」 元リーダーA氏が語る“実態”
「10年くらい前から海外の『かけ場』が始まりました」――そう話すのは、特殊詐欺グループの元リーダー・A氏だ。今は30代で会社員だが、17歳のころ、知人の紹介で東京・千代田区のオフィスビルの上階にある会社に入った。 オフィスにはデスクと電話機が並び、数十人の男たちが電話をかけていたという。最初は何か分からなかったが、言われるがまま電話をかけた。そのうち、「詐欺だ」と気づいた。A氏は巧みな話術で多くの人をだまし、「これなら自分でやった方がいい」と考えて“独立”した。 A氏が、かけ子グループを仕切っていると、特殊詐欺グループのコミュニティーの中で、知人から海外拠点の話を持ちかけられたという。 「海外で電話しようと思うんだけど、誰か紹介してくれない?」 「海外だとパクられない(捕まらない)し、人を紹介してくれたらマージン渡すよ」 この時、海外拠点のメリットについて、日本の捜査当局による摘発が難しいこと、家賃が安いこと、パスポートを預かるため末端のかけ子が逃げ出さないこと…などが挙げられたという。A氏自身のグループも中国に拠点を作ることを考えたが、パスポートの取得などが面倒だったため、諦めたと話す。 その後、A氏は関東地方で、かけ子グループを仕切っていたが、17年に逮捕され、実刑判決を受けた。 23年に海外拠点の摘発が相次いだことについて、A氏は「ヘタ打ったな…と。うまくやれなかったんだろうなと思いますけど、たくさん拠点があるから、一部が捕まっているんだと思います」と話し、摘発されたのは氷山の一角にすぎないと指摘する。