「元大企業の重役は嫌われる」「元商売人は職員に好かれる」 老人ホームで快適に過ごすためのコツを事例から学ぶ
「元商売人」は付き合いがうまい
一方、私が見ていて「職員との付き合い方が上手だな」と思ったのは、ある元飲食店経営者のケースです。この方の居室の冷蔵庫の中は、いつ行っても缶コーヒーや栄養ドリンクがぎっしり。でも、これは自分で飲むためじゃなくて、職員が来た際に「ほれ、持っていけ」と渡すために買い込んであるんです。 缶コーヒーなんてまとめて買えば1本50円とか100円とかそんなものですし、この方も何か具体的に見返りを求めているわけではありませんが、職員からすればやっぱりうれしい。別に缶コーヒーがもらえるからとかではなく、職員はこういう入居者の居室には用がなくとも自然と顔を出す回数が多くなるものです。 概して職員との付き合いが上手な人というのは、この方のような「元商売人」が多い気がします。商売をしていた方は、経験上、他人に対する些細な気遣いが大きなリターンを生むことを分かっているのでしょう。
自分の居室で“プチ・スナック”
例えば、ママとしてスナックを経営していたある女性は、仲良くなった他の入居者を自分の居室に呼んで夜な夜な持ち寄りの“プチ・スナック”を開店していました。居室での飲酒を禁止しているホームは多いですが「周囲に迷惑をかけないなら」と消極的に許可するか、事実上、黙認しているところもある。この女性が入居していた施設も「医師や親族からストップがかかったらやめる」などの条件のもと、常識の範囲内で飲酒することを認めていました。 でもこの方が本領を発揮したのは“プチ・スナック”が閉店した21時以降。仕事が一段落した夜勤の介護士を居室に招いて20~30分ほど“スナック第二幕”を開くのです。もちろん職員が飲むのはお茶ですが、ある日、客役の職員が、この女性がつまみに出してくれるお手製の糠漬けが少し傷んでいるのに気付いたことがありました。この職員が糠漬けを事務所に持ち帰り、看護師や他の職員と協議して出した結論は「認知機能の低下」。以後はご家族と相談した上、彼女の居室にある食品を施設が責任を持って管理するということになりました。このように施設と良好な関係が築けていれば、日々変化していく入居者の心身の状況に応じて柔軟な対応を取ることもできるのです。