「元大企業の重役は嫌われる」「元商売人は職員に好かれる」 老人ホームで快適に過ごすためのコツを事例から学ぶ
恐ろしい孤立のスパイラル
私は何も、入居者全員に「元商売人」の方たちと同じようにサービス精神旺盛であれと言うつもりはありません。ただ、施設で鼻つまみ者になってしまう方というのは、往々にして一般社会でも同様の評価をされていることが多い。 気になる方は是非、ご自身の家族との関係を思い返してみてください。ときどき「いずれ施設に入るから、家族に嫌われたっていいんだ」と開き直る老人を目にしますが、実はそういう人が一番危ないんです。家族というのは、自分が他人からどう思われているかを映す最良の「鏡」。施設で嫌われている人は、大抵、家族ともうまくいっていないことが多いように思います。 それに家族から嫌われている方は総じて、値段だけで選ばれた適当な施設に放り込まれがち。当然、家族もほとんど面会にやってきません。それで職員や他の入居者ともうまくいかないのですから、恐ろしい孤立のスパイラルです。
対人関係が苦手な職員は多い
一方、愛想が良く、人当たりも悪くない高齢者には、バラ色の施設ライフが待ち受けているかといえば、こちらもそうとは限らない。先ほどとは逆の意味で失望してしまうケースがあるのです。それは「老人ホームに入れば、痒(かゆ)い所に手が届く気の利いた職員がたくさんいる」と勘違いしている場合です。 ときどき介護職員に高いコミュニケーション能力を求める方もおられますが、私はそのこと自体が間違っていると思います。コミュニケーション能力の高い人というと、常に明るく、誰とでも仲良くなれ、どんな出来事にも臨機応変に対応できる。そんな人を想像するでしょう。でも、介護業界にいる人は、他の業界では長続きせず転職してきた人も多く、対人関係を上手に作ることが苦手な人が少なくないのも現実です。認知症の高齢者には丹念に気長に対応でき、入居者が取る一見非常識な行動にも寛容でいられるのですが、“普通の人”とペチャクチャ談笑するのは苦手という方は案外いるのです。 〈小嶋氏によれば、介護とは「家族の代行業」。関係がうまくいっている介護職員と要介護者との間には「疑似家族」のような不思議なつながりが構築されることも珍しくないという。 では、介護職員との間で疑似家族のような信頼関係を築くためには、どうすればよいのか。答えの一つは、「期待し過ぎないこと」にあるという。〉 詳細は省きますが、実は老人ホームというのは、介護保険法上は施設ではなく「居宅」というカテゴリーに入ります。家族の代わりに介護職員が近くに常駐し、途切れることなく様子を見続けてはくれますが、それぞれの居室はあくまでも「自宅」。老人ホームはいわば、介護職員が常駐する賃貸住宅に過ぎません。