「元大企業の重役は嫌われる」「元商売人は職員に好かれる」 老人ホームで快適に過ごすためのコツを事例から学ぶ
「要介護者の心得」
〈小嶋氏は、かつて介護付き有料老人ホームで介護職員や施設長、施設開発企画業務などに従事してきた。現在は、その経験を生かし、日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」で利用者に合った施設の紹介・あっせんを行っている。そんな介護業界のオモテにもウラにも通暁する氏が、快適な施設ライフのために重要だと語るのが、この「要介護者の心得」である。 要介護者になってから後悔しないために、何を覚悟し、何を理解しておくべきなのか。今回は複雑な制度や頭の痛いお金の話は最小限にして、施設に入所した要介護者たちの実像を紹介してもらおう。〉
自分の部下だと勘違い
こんなことを言うと「バカにしているのか」とお叱りを受けるかもしれませんが、介護施設で快適な生活を送りたいのなら「当たり前のこと」に気を付けるしかありません。でも、実はこの「当たり前」ができない入居者は想像以上に多いんです。 介護職員から嫌われないこともその一つ。職員は聖人君子ではありませんから、当然、好き嫌いはあります。 誰しも年を取れば、性格が多少偏屈になったりしますが、その程度であれば特に問題はありません。少し大きな介護施設であれば50~60人は職員がいますから、多少性格に難があっても一人、二人は親切にしてくれる職員がいるものです。 問題はむしろ、頭ははっきりしていて、かたくなに自分が正しいと思い込んでいるタイプ。例えば、居室を訪れた介護職員に対して「寝癖くらい直しなさい」「シャツが出ていてだらしない」「敬語がなっていない」といちいち小言を言ってしまうのです。この手の方は、誰もが知る大企業の重役だったり、高級官僚だったりという華麗なる経歴をお持ちであることが多い。小言を言うのは、きっと介護職員を自分の部下だと勘違いしてしまうのでしょう。
「定年退職すればタダの人」
介護職員の中には、こういう人たちが大事にする「秩序」や「ルール」が苦手で介護の世界に飛び込んだという人も少なくありません。そのような職員からすれば、普通の人には学校や会社の延長に過ぎないお説教も、たちまち地獄の時間になってしまう。入居者本人は「その職員のためになる」と思って指導や教育をしているつもりでしょうが、知らぬ間に後ろ指を指されるようになり、最低限の生活介助以外、居室には誰も近寄らなくなってしまうのです。 必要な介護をしてくれるならそれでいいと思われるかもしれませんが、実はこれは、大変由々しき事態。職員とのコミュニケーションが滞ってしまえば、施設内の情報が全く入らなくなってしまいます。多床室ではなく個室がある老人ホームでも、施設では入浴や食事、レクリエーションなど集団生活が基本。「明日の予定はこうですよ」と教えてくれる職員がいなくなれば生活が立ち行かなくなってしまうのです。そうして施設内で口を利ける人がいなくなり、心身の機能が低下する廃用性症候群になってしまった方も知っていますし、にっちもさっちもいかなくなって転ホームを余儀なくされた方もおられました。 サルは木から落ちてもサルのままですが、会社の重役や高級官僚であっても人間は、定年退職すればタダの人。「定年後は近所のレストランで皿洗いのアルバイトでもするか」くらいの気概を持てる人の方が、介護施設ではトラブルになりにくいのです。