「へぇ~」が止まらない足立区と葛飾区「区境」。辿って見つけた”境界の証拠”に興奮~「境界協会」主宰・小林さんの“推し境界”を紹介~
この土手にももちろん、両区の境界線を示す看板が並んでいた。「境界線は地図にしか実在しませんが、実際に境界をたどるとゲームっぽいでしょ? この冒険的な感じがたまらないんですよ」と小林さん。一緒に境界をたどり続け、その意味がよくわかった気がした。 ■きっかけは雑誌の特集制作 小林さんは荒川を挟んで東京都との「境界」にある埼玉県川口市の出身。 北海道旅行で有珠山噴火にたまたま遭遇したのを機に地形や地図に興味を持ち、大学では地形学を専攻。測量会社勤務などを経て、日本地図センターの職員になった。
2014年に境界協会を立ち上げたのは、同社刊行の雑誌『地図中心』の特集で今回の葛飾区・足立区周辺の境界を特集したことがきっかけだった。その後は面白い境界があるルートを調べ上げ、現在は都内を中心に約120のルートがある。 今回巡ったルートのほかにも、面白い境界ルートがいくつもある。 1つは日本地図を完成させたことで知られる伊能忠敬の足跡のうち、測量活動の「最初の一歩」に相当する門前仲町~浅草橋周辺をたどるルート。
再拡張が続く大田区の羽田空港周辺も、穴守稲荷など空港ができる前の歴史的なエピソードから現代までをつなぐ面白い逸話があるという。 そのほかにも、「西大泉町」という東京都練馬区の「飛び地」がある埼玉県新座市、栃木、群馬、埼玉の「三県境」が交差する場所、都内で東京が35区体制だった頃の旧3区の境界線がある場所など、聞くだけでわくわくするような「境界」がたくさんある。 ■目的は「地図に興味を持ってもらうこと」
「こうした境界をたどることで、多くの人に地図に興味を持ってもらいたいというのが私の活動の目的です。面白い境界を見ていると、自分の家の近所の境界も目にとまるようになる。境界は地域を分ける線ですが、地域をつなぐ地域の交差点でもあるのです」 境界を知ることで地域を知る。小林さんの活動には単に境界を面白おかしくたどるだけではなく、地域の魅力の本質を掘り起こす奥深さがある。 略歴)小林政能(こばやし・せいのう)
一般財団法人「日本地図センター」の月刊地図雑誌『地図中心』編集長。「境界協会」主宰。理学修士。1967年生まれ。埼玉県川口市出身。地理情報の調査収集、研究開発、普及活動などを手がける日本地図センターの職員として、各地の博物館、学校、カルチャースクールなどの街歩き講座を多数担当。「ブラタモリ」「タモリ倶楽部」といったメディアへの出演も多い。
岩崎 貴行 :ジャーナリスト・文筆家