国鉄民営化! 1986年の公約「楽しい旅行を企画します」は結局、守られたのか? 改めて考える
自民党の1986年意見広告
国鉄分割民営化の前年の1986(昭和61)年5月22日、自民党は全国紙に意見広告を出した。それは、国鉄分割民営化後の懸案事項に関して不利益がないことを「公約」したものであった。意見広告に明記された公約は次の六つである。 【画像】貴重! これが50年以上前の北海道「留萌駅」です(計16枚) ●民営分割 ご期待ください。 ・全国画一からローカル優先のサービスに徹します。 ・明るく、親切な窓口に変身します。 ・楽しい旅行をつぎつぎと企画します。 ●民営分割 ご安心ください。 ・会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません。 ・ブルートレインなど長距離列車もなくなりません。 ・ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません。 連載3回目となる本稿では、「楽しい旅行をつぎつぎと企画します。」について再考する。果たしてこの公約は守られているのだろうか。
高知商業高の観光プラン挑戦
5月のある平日の夕方。JR四国高知企画部の会議室で、高知商業高校社会マネジメント科地域実践コースの生徒たちが、JR四国高知企画部の川崎佳孝主席に、一部の施設が重要文化財に指定されている魚梁瀬(やなせ)森林鉄道(高知県安芸郡馬路村など)をめぐる旅行プランを説明した。 この日の午前中、高知商業高校の生徒たちは、高知大学の学生たちに、この旅行プランを説明し、いろいろと助言を受けた。旅行業に携わった経験をもつJR四国の川崎氏は 「今後さらに検討を重ねていけば、よい商品を生み出せるようになる」 と感想を述べた。この日参加した生徒たちは3年生で、卒業後の進路は地元大学などへの進学や、就職などさまざまであるが、生徒代表の山中陵平さんは 「自分たちができることから少しずつ挑戦していき、いずれは地元である高知県を私たちの活動によって活性化させられるように頑張りたいです」 と抱負を述べた。
JR四国の分担率と課題
JR四国が管轄する高知県を含む四国4県(一部の路線は岡山県へ乗り入れ)は ・急速な人口減少 ・モータリゼーションの進展 ・高速道路網の発達 などを受けて利用が伸び悩んでいる。輸送人キロがピークの21億2300万キロに達した1991(平成3)年以降減少傾向にあり、活性化が急務である(「四国における鉄道ネットワークのあり ネットワークのあり方に関する懇談会II 事務局資料」)。 現状でも、四国4県間の公共交通による移動では、JRの分担率は23.5%にとどまる(2022年度「旅客地域流動調査」)。また、高知市に限れば、JR(鉄道)の分担率はわずか1%にすぎない(「高知市の地域公共交通の取組について」)。 JR四国の「2023年度 期末決算について」(2024年5月8日公表)によると、鉄道運輸収入223億円のうち、定期収入は 「20.5%」 である。四国の日常の移動手段は自動車が主流であり、JR四国の定期利用者の大半は高校生以下の生徒である。そのため、通勤利用者を増やすのは容易ではない。筆者(大塚良治、経営学者)が取材で訪れた香川県のある進学校では、高校時代にJR線で通学をしていた若い女性教師が、 「鉄道で学校へ通っていた生徒も免許を取得すると、多くが自動車利用へ移行してしまう。私もそのひとりであり、今は毎日車で通勤している」 と話していた。