路上で歌い知った「人の優しさ」 Reライフ文学賞・読者賞の手塚幸さんに聞く
文芸社と朝日新聞Reライフプロジェクトによる「Reライフ文学賞」は、第二の人生に巻き起こる「家族」の物語をテーマにした投稿文学コンテスト。長編部門では最優秀賞のほかにも、Reライフ読者会議のメンバーが選考委員となって「Reライフ読者賞」を選んでいます。第3回でReライフ読者賞に選ばれた「家族食堂」の作者・手塚幸さん(54)=新潟県=に、作品に込めた思いを聞きました。
被災した町中華の物語 水害やバイト…経験を投影
「家族食堂」は、豪雨で被災した町の中華料理店が、子ども食堂としての交流を通じて再生していく物語。選考会議では、「商店街の様子、人々のなりわいなどが丁寧に描写されていた」「人はこんなにもたくましく優しく生きていけるんだということを教えてくれる物語」などといった点が評価され、Reライフ読者賞に選ばれた。 手塚さんは20代のころから路上ミュージシャンとして日本各地を巡ってきた。移動中に所持金がつきかけたこともあるが、その都度、出会った人の善意に救われてきたという。 「小さい店をやっているから演奏してみないか、と誘ってくれた人もいた。人間の本質には優しさがある。そのことを込めた、人間賛歌の物語にしたかった」 作品でこだわったのは、会話にリアリティーを持たせること。町中華という舞台での業者や客とのやりとりは、かつて飲食店でアルバイトした経験が生きた。 「いろんな人たちが見られるというところは、路上ミュージシャンとも共通点がある」 水害については小学生のとき、出身地の長崎で親戚の家に大きな被害が出たことがあり、当時を思いながら書き進めた。 「受賞を目指したというよりは、ただ自分が伝えたいことを物語に込めた結果。読者の方々が、どこかに自分の生き方を重ねて深く読み込んで選んでいただいたことはうれしい」
今も新潟市の繁華街で、路上ミュージシャンとしての活動は続けている。最近は、地元のテレビでも取り上げられた。一方で、プロの作家として活動していきたいとの思いは強い。 「まずは幅広い読者に自分の作品を読んでもらいたい。作家としての活動をメインにしていくためには、大きな賞を狙っていかないといけない」 今後も様々な賞に応募していくつもりだ。 最後にこれからReライフ文学賞への応募を考えている方へのアドバイスを尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「人生も50年生きると、乗り越えられなかった悲しみや逆境もあると思いますが、作品を書くことによって自分の感情を昇華させていくことができる。これが文学の醍醐味じゃないかと思います。あとは人に伝わる言葉、伝えやすい表現を心がけて、自分で書いていて楽しくなる作品を書いてください」