ブログで「SM好き」の男性を探しだして再婚した「43歳専業主婦」を待ち受けていた「結婚生活」の末路
レスだからといって別れる必要はない
男性はどうか。サキさんの夫に訊いた。10歳、サキさんよりも年上の夫もまた男性更年期真っ只中で、肩こり、背中の痛み、ほてり、抑うつ、性欲低下、勃起障害などに悩まされているという。とくに勃起障害での悩みは深刻なようだ。 「私自身、53歳で、性的な面で不安も大きくなりました。肉体的な結びつきがないのは辛いところもありますが、わざわざ挿入に拘らなくてももういいのかなという気もあります」 サキさんの夫が言うには、夫婦間での愛情表現としてセックスは大事だ。自分たち夫婦では、その愛し方、手段がSMである。とはいえ最終的には挿入行為へと結びつく。これは互いに満足したいところだが、ここ最近、その点で不安が大きくなり、自分も、そして妻であるサキさんも満足させることが難しくなってきたというのが今の現状だとか。 「なので、毎日、短い時間でもマッサージをするとか、そういうことでセックスの代用というか。ただ妻は、そうは捉えていない節もあります。でも、それはそれでいいのかなと。セックスができない。だから夫婦別れというのも、ちょっと違う気がしますしね」 こう語る夫を慮るように、サキさんは、「(夫には)外で遊んでもいい」と言っているが、夫は首を縦に振らないという。 「もし、本当に性的な面で私が欲求不満なら、不貞行為云々という話はさておき、そういうパートナーを探すだの、私の性的嗜好に特化した風俗店に通うとか、いろいろ選択肢はありましょう。でも、そこまでしてわざわざという気持ちの方が強いです。私も歳を重ねたので。そういう気が薄くなってきましたね」 お互いにセックスレス状態であることを理由に離婚する気持ちはないというサキさんたち夫婦だが、「ただ挿入をしていないだけで、それ以外では夫婦間のコミュニケーションは取れている」と互いに口を揃える。
本当の夫婦の在り方
「セックスレスになってからが本当の夫婦ではないですか――」 こう語るサキさんを夫は黙って頷きながら静かに見ている。その光景はまさに長年連れ添った夫婦ならではの落ち着きが見て取れた。 緊縛師でSMバー「ARCADIA」などのオーナーとして知られる蒼月流氏は自著である『新・SM的恋愛術』(三和出版)のなかで、いわゆるSMカップルの持続時間についてこう記している。以下、引用する。 ≪……(略)私の知る限り、多くの主従関係はその付き合いが長くなればなるほど、そして一緒にいる時間が長くなればなるほど、段々と普通のカップル化していきます。(以下、略)……≫ SMという性的嗜好が切っ掛けで出会い、縁有り、ずっと一緒にいたとしても、四六時中「ご主人様――」という訳にはいかないだろう。いわばSMとは男と女、SとMのふたりが互いにつくるファンタジーの世界だ。夫婦となれば日々をどう過ごすか、ファンタジーではない現実の生活がある。いつしか、蒼月氏が言うように、「段々と普通のカップル化」していくのはごく自然なことといえよう。セックスレスもまた然り。 もっとも今でこそセックスレスではあるもののSM婚をしたことに後悔はないと語る。 「人がいちばん隠したい性的嗜好から関係に入っているので、互いに何でも夫婦間で話しやすく、隠し事をする必要がない。これは大きなメリットです――」
夫婦で互いに理解を深めることが大切
今でこそ夫婦の営みからは遠のいているものの、そこはやはりSM婚夫婦。互いが互いを慮っている現状がある。 「夫の趣味が写真と絵画なんです。だから夫が私をモデルに写真を撮る時間を時折持っています」 こうした実情を聞くと、何も挿入行為に拘らずとも、十分、夫婦仲良くやっているといえよう。今、私たちはあまりにもセックスレスという言葉に怯えているのではないだろうか。夫婦の本質とは何か。今一度、考えさせられる話である。 夫婦互いに、男性、女性、それぞれの性について理解を深め、互いに重ねていく年齢からくる肉体的衰えを慮れば、おのずと取るべき道が開けてくるのではないだろうか。(本文中、敬称略)
秋山 謙一郎(フリージャーナリスト)