毒親に縛られ続けたライナス・ポーリング...ノーベル賞を2度獲得した天才の苦労
理性を失った「ビタミンCへの妄信」
――化学結合の本性と分子構造の解明でノーベル化学賞を受賞し、「現代化学の父」とも呼ばれた理性的なポーリングが、晩年、異様な「ビタミンCで癌が治る」という説を唱えるようになった。その理由も、母親の悪性貧血と関係はありませんか。ビタミンCは貧血に効く、ともいいますし。 【高橋】そこにまで母親の影があるとは思いつかなかった(笑)。そもそもポーリングほどの天才が、なぜ晩年に「ビタミンCで癌が治る」という奇妙な説を主張したのかは謎です。 過剰に投与されたビタミンCは排泄されます。しかも、ポーリングの学説は何度かの追試でもまったく確認されませんでした。それにもかかわらず、彼は最愛の妻に「ビタミンC療法」を施し、彼女の癌は完治せずに亡くなってしまった。 彼はベトナム戦争に公然と反対し、「核実験停止の嘆願書」を国連事務総長に提出するような信念の人でした。 もし母親からのダメージが蓄積して晩年の彼に影響が現れたのだとしたら、それは悲劇というほかない。ノーベル賞を2つ受賞した天才の輝かしい「光」の背後にも、暗すぎる「影」があったわけです。
高橋昌一郎(國學院大學教授)