容疑者が海外に行っても引き渡し可能? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
大阪市の准看護師の女性が東京都八王子市で遺体となって見つかった事件で、大阪府警は元同級生の日系ブラジル人女性を死体遺棄容疑で逮捕状を取りました。元同級生は女性名義のパスポートで不法入国したとして、中国公安当局に身柄を拘束されています。今後は外務省を通して、元同級生の身柄を引き渡すよう中国側と協議するとみられます。ただ日中間には、容疑者を受け渡す公式ルールである「犯罪人引渡し条約」が結ばれていないので、過去の例から推察すると、中国が元同級生を、国籍のあるブラジルへ強制送還する可能性が濃厚です。
「犯罪人引渡し条約」日本は米韓2か国のみ
中国側からみれば、元同級生は日本も含むほぼすべての国が慎重になる「自国民の引き渡し」ではありません。と同時に、元同級生は不法入国という微罪で、このケースだとたいていの国が強制送還なので、多分そうするだろうという観測です。 では送還後にブラジルに対して引き渡しを求め、実現するでしょうか。思い出されるのが05年に静岡県浜松市の男性経営者が殺されて売上金が奪われた事件です。静岡県警はブラジル人の逮捕状を取りましたが既に帰国しており、国内法で裁く手段を失いました。 日本はアメリカと韓国としか引き渡し条約を結んでいません。その不備を問う声は以前からありました。しかし政府は一貫して及び腰というか消極的。最大の理由は「条約を結ぶ必要がどこにあるのかが重要。関係が深くて人の往来が頻繁であるなど、引き渡しのニーズがなければ、そもそも条約締結に至らない」との考え方です。現在、日本に滞在する外国人(観光客や外交官などを除く)は約200万人で、不法滞在者を推定しても総人口の2%程度。内訳は中国32%、韓国・朝鮮26%、フィリピン10%、ブラジル9%となっています。2009年から4年連続して減っています。
「米韓」以外から引渡されているケースも
確かに米韓以外で引き渡されているケースもあり、政府(外務省)は「条約がないからといって犯罪者が引き渡されないわけではない」との立場です。 アメリカと結んだのは同国が「条約を締結しない限り、犯罪者を引き渡さない」と明言しているから。そこから条約締結のインセンティブが働いているようです。これもあってアメリカは約70か国と条約を結んでいます。韓国とは2001年の米国同時多発テロで世界を震わせたテロ対策と、翌年の日韓共催サッカーW杯開催がインセンティブとなりました。 ではブラジルはどうかというと、憲法で原則として自国民を他国に引き渡さないと定めているので条約を結んでも実効性が乏しいでしょう。というか結ぶ前段階でつまずきます。