植田日銀、円安加速で迷走:縮まらない日米金利差
経済への影響が大きい金融引き締め
厄介なことに、円安配慮の金融政策は、過去の円高配慮の金融政策と同じというわけにはいかない。ほとんど緩和余地を失った下での、円高対応の追加緩和は「演技」に過ぎず、円高阻止に非力であったと同時に実体経済への影響もなかった。 これに対し、円安対応の金融政策は「引き締め」となり、経済への実害を伴う。円安進行に対して利上げを重ねると、「実体経済への打撃が大きく、再びデフレに後戻りするリスクが高まる」(別の日銀OB)わけだ。 また、利上げしても「円安阻止の効果がほとんどないかもしれない」(先の大手邦銀)という。なぜならば、日本は「変動相場制」を採用し、資本移動の自由を認めているからだ。現在の円安(ドル高)は、米国との金利差が大きいことが主因だ。資本が金利の高いドルに流れて円安になる以上、金利差をかなり解消しないと円は安定しない。現在、米国の政策金利は5%超であり、この水準に接近させる必要があるわけだ。 しかし、現実問題として、日本経済が大幅な利上げに耐えられるはずもない。膨大な財政赤字も抱え、利上げを重ねると国債暴落も招きかねない。つまり、「日銀がさほど利上げできないことを為替市場は見透かしている」(先の外資系ファンド)のだ。円安阻止で利上げしても、せいぜい数回にとどまり、その程度では日米金利差はほとんど解消せず、「ずるずると円安が進んでしまうだろう」(同)という。 なお、1970年代前半に変動相場制に移行してから、日本は通貨安阻止の「利上げ」を行ったことはない。植田総裁は審議委員時代、ある懇談の場で「インフレファイターとして思いきり利上げしてみたいものだ」と語ったことがある。それから四半世紀近く経ち、まさか総裁として一段の円安阻止に大幅な利上げを迫られかねない羽目になるとは思いもよらなかっただろう。 日銀は6月14日の金融政策決定会合で、国債買い入れの減額を決定。「長期金利のより自由な形での形成」を目指し、ある程度の金利上昇を容認するものだ。 だが、円安阻止で政府・日銀にできることは一つしかない。米国のインフレが落ち着き、米連邦準備制度理事会(FRB)が早めに利下げするのを願うことだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は同月12日、年内の利下げ回数の見通しを「1回」とし、これまでの「3回」から減らした。日米の金利差はなかなか埋まらない。米国の物価安定は、日本経済にとっても極めて重要になっている。
【Profile】
窪園 博俊 時事通信社解説委員。1989年時事通信社入社。97年から日銀記者クラブに所属し金融政策や市場動向を取材。SNSなどで発信する「本石町日記」の鋭い分析は、金融業界や政策関係者などプロもチェックしている。