鹿児島県に伝わる幻の楽器「天吹」の「誰も聞いたことがない」途絶えた曲を音大講師が「復元」…2年かけ
鹿児島県に伝わり、「幻の楽器」とも称される竹製の縦笛「天吹」の曲を、尺八奏者で東京音楽大講師の渕上ラファエル広志さん(39)が“復元”した。薩摩藩の子弟らが親しんだとされるが、今に伝わるのは7曲のみ。保存継承に取り組む「天吹同好会」(鹿児島市)から依頼を受けて、2年がかりで8曲目を完成させた。鹿児島の文化や歴史に根ざした楽器で奏でる魅力を次世代に伝えていくつもりだ。(小園雅寛) 【写真】白尾さんが所有する天吹
日系3世の尺八奏者
渕上さんは曽祖父母らが熊本県からブラジルに渡った日系3世。ブラジルの大学でフルートと尺八を学び、2015年に来日した。東京音楽大の大学院で尺八を研究して師範の免状も取得。奏者としても活動している。
天吹との出会いは16年、指導教官が天吹や島唄など鹿児島県の音楽について現地調査することになり、助手として同行した時だ。同好会の奏者に演奏してもらい、「人の内面から生み出される音のように感じた」と振り返る。21年に同好会に入会し、ウェブ会議システムを使って会長の白尾国英さん(71)の指導を受けてきた。
楽譜はなく
天吹は武士の間で伝わっていたとされ、明治時代になっても、藩士の子弟を対象とした教育制度の流れをくむ「学舎」で「かじらない者はいない」と言われるほど隆盛だった。ただ、明治中期に勉学の妨げとして禁止されると、楽譜などはなく口頭で伝承されてきたこともあって、一気に衰退した。
現在、天吹の伝承曲とされているのは7曲のみで、いずれも1950年代に、唯一の伝承者だった大田良一氏(1887~1959年)が演奏して録音したものだ。最も短い曲で二十数秒、長いもので4分程度で、全ての曲を演奏しても15分弱しかない。
手記に残る曲
実は、天吹には8曲目がある――。
白尾さんは以前から、学舎で歌われていた曲の中で、少年への恋愛をつづった「稚児出れ」という歌も天吹の曲だということを知っていた。大田氏から直接指導を受けた父の国利さん(2006年死去)が、同好会の教本に、「チゴデレの曲あり(大田氏談)」とする手記を残していたからだ。