人類が火星に向かうための3つの課題 JAXA 的川泰宣名誉教授インタビュー
THE PAGE
月を超えて火星、さらにはその先へ ── わたしたち人類は、一体、宇宙のどこまで行けるのだろう。オバマ米大統領は2030年までの人類の火星到達に言及した。欧州探査計画「エクソマーズ」 は火星にいよいよ到達し、中国も火星探査に向けて野心的だ。人類が赤い惑星に向かうために、どういった課題があるのか? 宇宙工学が専門で「横浜こども科学館」の館長を務める宇宙航空研究開発機構(JAXA)の的川泰宣名誉教授に話を聞いた。 ----------
人類が火星に向かうための3つの課題
昨今、世界の宇宙機関のトップのあいだでは、国際宇宙ステーションの運用が終わる2024年以降の次の目玉プロジェクトが検討されています。その中で、米国は火星探査を提案し、他の国は特に反対しませんが、まず月面で実証実験を重ねてからにすべきでないか、という意見が国際的には多いようです。 火星に行く場合、基本的に、火星に「行く技術」、火星で「生活する技術」、火星から「帰る技術」の3つの技術が必要になります。 このうち、もっとも大きな課題を抱えているのが、生活する技術です。まず、放射線からどのようにして身を守って生活するのか、その対策がいまだ確立できていません。放射線を避けるため、たとえば地下に穴を掘って住居用のスペースを作るのか、遮蔽能力のある物質を外壁に用いたドームを作ってその中で暮らすのか。人類は、月面ですら長期間生活した経験がないのです。放射線対策の検討が必要です。
この他、水や酸素の確保についても、まだシナリオができていません。火星の地下には水があるといわれていますが、どうやって取り出して利用するのかなどの課題があります。 3つの中で、行く技術の開発は比較的進んでいますが、帰る技術については、宇宙船の機体の耐熱性をどう確保するかが問題です。スペースシャトルだと、大気圏突入時の表面温度が1500℃ほどでしたが、はやぶさの場合は惑星間航行のため突入速度がそれよりも速く、探査機本体の表面温度が3000℃を超えました。加えて、火星からの帰還時は宇宙飛行士を乗せていますから、内部の温度上昇も抑えねばなりません。 とにかく、火星に行き、生活し、そして帰るためには、綿密な設計が必要です。