黒田を激怒させた藤浪は暗黙のルールを破ったのか?
「なめとんか?」 広島の黒田博樹(40)の口元は、そう言っているように見えた。 広島のホームで行われた25日の阪神戦。1―1で迎えた2回裏一死一塁。打席でバントの構えをしていた広島の黒田に対して、ボールカウント1-0から阪神の藤浪晋太郎(21)の投じた1球が、その顔あたりを襲う。黒田は、背中を向けて、転びながら、なんとか避けたが、続く3球目もぶつかりそうなほど厳しくインサイドへ。体を一回転させて、かわした黒田は、勢い余って、またお尻から転倒。血相を変えて起き上がると「おら!」と言葉を発しながらバットを持ったままマウンドへ歩みよった。 藤浪は帽子をとって謝罪の意を示したが、両方のベンチから選手が一斉に飛び出してきた。怒りの醒めやらぬ黒田は、間に入ろうとする阪神の平田ヘッドに詰め寄った。緒方監督も和田監督と何やら口論。あわや大乱闘に発展しそうな騒動となった。 「藤浪君のバントをさせたくない気持ちはよくわかるが、2球続けてきたから。年齢は関係ない。自分の体は自分で守らねばならない。あそこで僕がヘラヘラしているようでは、チームにも影響を与えてしまう」 試合後、黒田は、自らの行動をそう説明した。 メジャーでは暗黙のルールと呼ばれる不文律がいくつか存在している。一方的な点差がついている試合での盗塁やバントなど、やってはならない侮辱行為で、その暗黙のルールのひとつに「ピッチャーへの厳しい内角攻めはやらない」というものがある。ドジャース時代にピッチャーが打席に立つナ・リーグで4年間プレーした黒田にしてみれば、その暗黙のルールは自然と身についているもの。メジャーの野球に詳しい評論家の与田剛氏は「メジャーだけでなく、日本でも基本的には、よほど勝敗に直結しない打席以外では、ピッチャーに対しては厳しく内角は攻めない。お互い本業であるピッチングに影響を与えるような攻めはしないという不文律は存在している」という。 しかも、藤浪の内角への厳しい投球は、3球連続で続いた。黒田が怒るのも当然だったのかもしれないが、ただ、どう考えても藤浪の投球に故意性はなかった。本人も、試合後、「バントをやらせようと思って、しっかりと投げないまま(バント守備のために)先に走りだしてしまった。それで、ああいうボールになってしまった」と説明したが、ただでさえ、コントロールの荒れていた藤浪が、バント処理をあせるあまり、手先を乱しただけのことだ。 前述の与田剛氏も「バント守備のため三塁側にマウンドを降りることを先に考えると、体の重心が浮き、リリースポイントが早くなり、右打者のインサイドへの抜け球になる可能性が高まる」と、解説する。例え故意でなくとも、それが3球も続けば暗黙のルールにあてはめる必要があるのだろうか?