ジェーン・スー 17年前に感じた違和感は、いまなら立て板に水の如く説明できる。法律婚における名字の選択と私
◆珍しく無力感を覚えたこと 先日、とあるテレビ番組に出演した。結婚観について質問されたので、法律婚には興味がないと答えた。すると、「お相手ができたら……」といったニュアンスを含む返答をされたので、パートナーはいるが、夫婦別姓を許さない法律婚には興味がないと伝えた。質問者は自身に内在する偏見にすぐさま気付き謝罪した。私はそれを受け容れた。ま、そういうことはよくあること。私にだってあるから気にしない。 後日、放送を観たら、「スーさんには結婚の意思がない」というテロップひとつで片づけられていたので噴き出してしまった。 結婚観がメインテーマの番組ではなかったし、テレビってそういうものだとわかって出演したので、怒ったり悲しんだりはしなかった。けれど、選択的夫婦別姓制度が導入されたら話は違ってくることは、視聴者には伝わらないだろうとうなだれもした。次の瞬間、相手の親が観たら悲しむのではという思いがよぎり、己に染みついた古い価値観に吐き気がした。 時を同じくして、父親が入院することになった。命に別条はないが、手続きにはなんやかんやと家族の存在が必要になる。つまり、私だ。私はひとりっ子だし、母はとうの昔に鬼籍に入っているから。 私やパートナーが病気になったら、お互いを家族と証明するものがない。事実婚について調べたこともあるが、法律婚をすれば一発で解決することを有効化するのに、非常に煩雑な手続きが必要になる。選択的夫婦別姓が当たり前の国に生まれていたら、こんなことで頭を悩まさなくて済んだと思うと、珍しく無力感を覚えた。 この話、思ったより長くなるので来月に続きます。
ジェーン・スー
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