中村歌六 『熊谷陣屋』白毫弥陀六「義太夫狂言の爺役には力が要るんですよ」【ぴあアプリ「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」特集より】
反戦劇の中で、弥陀六の揺れ動く心情をみせられれば
――11回目となる弥陀六ですが、これまで勤めて来られて、ご自身で「ここは変わってきたな」という部分はありますか。 歌六 やりやすくなってきたことがあるとすれば息の使い方かな。どこを張ってどこを落としたらエロキューションが面白くなるか、楽に出せるか。若い時はカーッと力任せにやろうとしていました。逆に最近はその力そのものがありませんから自然にできるのかな(笑)。 義太夫狂言の爺役って力が要るんですよ。年取ってからいきなり初役だときついかもしれない。弥陀六も今回が初役だったら辛いだろうな。『逆櫓』の権四郎、『野崎村』の久作、もちろん合邦もですし、まだやったことはないんですが『賀の祝』の白太夫も。息を詰めるのってある程度体力が要りますからね。義太夫狂言は婆も大変です。竹本の太夫さんには若いかたもおられるし、皆さん若いころから演っているわけですが、僕らの場合は50代ごろに初役で勤めて、60、70代になってようやく役と自分の心身のバランスがよくなったりするんです。 ――改めてこの『熊谷陣屋』という狂言の魅力はどんなところでしょう。 歌六 やはり反戦劇なんですよね。子供を犠牲にしてでも戦うことの悲劇。そしてカッコよく生きていく熊谷ではなくて、しぼんだ坊主になることを選ぶその心の哀れさ。弥陀六からすれば平家を潰してしまった自責の念と敦盛を助けてもらった恩、そのない交ぜの気持ちですよね。源氏を敵と思っていいのか恩人なのか。そんなふうに気持ちが行ったり来たりするのが見えてくるといいのかなと思います。 ――それにしても、何度拝見しても相模が気の毒過ぎて苦しくなります。 歌六 ほんとに昔の男どもは勝手ですよね。うちのかみさんもいつも、「私だったら子供は殺させない! おかしいでしょ、あれは」って観るたびに怒ってるよ(笑)。 取材・文:五十川晶子 <プロフィール> 中村歌六(なかむら・かろく) 1950年10月14日生まれ。四代目中村歌六の長男。弟は中村又五郎、いとこに中村時蔵、中村錦之助、中村獅童がいる。55年9月歌舞伎座『夏祭浪花鑑』の倅(せがれ)市松ほかで四代目中村米吉を名のり初舞台。73年名題昇進。81年6月歌舞伎座『一條大蔵譚』の大蔵卿で五代目中村歌六を襲名。2015年「伊賀越道中双六」(国立劇場)で第22回読売演劇大賞優秀男優賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。16年日本芸術院賞受賞。18年紫綬褒章受章。23年、重要無形文化財「歌舞伎脇役」各個保持者(人間国宝)に認定。 <公演情報> 歌舞伎座松竹創業百三十周年「壽 初春大歌舞伎」 【昼の部】11:00~ 一、『寿曽我対面』 二、『陰陽師』 大百足退治 鉄輪 三、恋飛脚大和往来 玩辞楼十二曲の内『封印切』 【夜の部】16:30~ 一、一谷嫩軍記『熊谷陣屋』 二、『二人椀久』 三、新作歌舞伎『大富豪同心 影武者 八巻卯之吉篇』 2025年1月2日(木・祝)~1月26日(日) ※8日(水)、16日(木)休演 ※下記日程は学校団体来観 昼の部:14日(火)、23日(木)、24日(金) 夜の部:22日(水) 会場:東京・歌舞伎座