歌麿や写楽を世に送り出した“名プロデューサー”…大河ドラマ『べらぼう』蔦屋重三郎ってどんな男?
橋本 顔役? 鈴木 土地を仕切っていた実力者です。駿河屋みたいな親戚縁者に助けられて、蔦重の仕事は成り立っていたと考えられます。で、そのうち貸本だけじゃなく自分で出版も行うようになる。
確実に稼げるようにしてから、手を広げていく
橋本 「吉原細見(よしわらさいけん)」っていうものを出していたんですよね。これはどういった内容なんですか? 鈴木 要するに吉原のガイドブックです。まず中心になるのは、どこの遊女屋にどのような女性がいて、いくらで遊べるのかという情報。それから茶屋の紹介です。 橋本 茶屋というのはお店ですか? 鈴木 お客と遊女屋を仲介する業者です。いまでも大相撲の枡席を茶屋を通して押さえたりするじゃないですか。あれと同じですね。ふらっと遊女屋を訪ねることは許されなくて、必ず茶屋を間に挟まなくちゃいけなかった。そういう茶屋の一覧も載っていました。あとは交通案内。当時、江戸市中から吉原へは船に乗って行くのが最短ルートだったんですけど、そんな情報も入れていた。これを年2回発行する。 橋本 どんどん改訂していくんですね。 鈴木 遊女は次々と入れ替わっていくので、最新の情報を盛り込むんです。「細見」って、吉原に来る人間にとっては必需品ですから、手堅い商売なわけですよ。遊女屋や茶屋が買い取って馴染みの客に配ったりもするから、一定の部数は常に担保されている。 橋本 なるほど。安定した商売ですね。 鈴木 蔦重は次々といろんなことに手を出すイメージがあるかもしれませんけど、博打みたいなことは決してしないんです。こけない仕掛けをきちんと用意しておいた上で、新しいチャレンジをする。「吉原細見」で確実に稼げるようにしてから、洒落(しゃれ)本なんかに手を広げていったんですね。
「洒落本」には喜多川歌麿の絵が
橋本 洒落本というのはどういったものなんですか? 鈴木 短い小説です。手もとにあるので、見てください。唐来三和(とうらいさんな)って人が書いた『三教色(さんきょうしき)』という本なんですけどね。 橋本 絵も入っていますね。 鈴木 この絵を描いたのは喜多川歌麿です。 橋本 わあ、すごい。 鈴木 内容は本当にくだらないんですよ。話は、孔子の家に天照大神が居候しているところから始まる。天照大神は遊び過ぎて家を追い出されちゃって、孔子のところで厄介になってるんですね。そこに釈迦が訪ねてくる。で、グダグダと話をしているうちに「吉原に行こうや」ってことになる。3人で吉原に行って、それぞれモテたり振られたり、ドタバタが繰り広げられるんです。神様や聖人たちが吉原でどんちゃん騒ぎをしているって、バカバカしいでしょ?