【解説】国際秩序を揺さぶる「ロシアと北朝鮮の蜜月」…プーチン氏訪朝で露朝の軍事的協調はどこまで進むか?
中露に対する北朝鮮の戦略的価値
ウクライナ侵攻以後のロシアとの関係強化に至るまで、北朝鮮は内外で厳しい状況に置かれていた。 度重なる核・弾道ミサイル実験を理由にした国連制裁によって北朝鮮経済は壊滅的な打撃を被った。金正恩朝鮮労働党総書記はトップ外交に乗り出し、2018~19年に制裁解除を求めてトランプ米大統領(当時)との直接交渉に臨んだものの挫折。再び核・弾道ミサイル開発に拍車をかけて国防力を強化する道を選んだ。 米国や韓国での政権交代を経て、日米韓は北朝鮮に対する拡大抑止策や中ロへのけん制で、かつてなく連携を強化した。一方、中国やロシアは「アメリカ中心の国際秩序」からの脱却を強め、北朝鮮も中露を含む「反米」陣営の構築を企てる形で自身の戦略的価値を高めてきた 特に北朝鮮は、ロシアにとって数少ない「ウクライナ侵攻を公然と支持した存在」の一つだ。米欧に対する一定の配慮から「ロシアとの一体化」の構図を避けようとする中国とは異なり、北朝鮮はプーチン氏の方針を全面的に支持し、武器支援までためらいなく進めている。中国が露朝の反米路線とは一線を画す一方で、北朝鮮はロシアとの密着ぶりを露骨にアピールし、ロシアをひきつけている。
日増しに高まる安全保障上の脅威
露朝関係強化は日米韓にとって安全保障上の脅威にほかならない。ウクライナで北朝鮮の弾道ミサイルが実戦で使われた結果、北朝鮮のミサイルが西側諸国のミサイル防衛網にどれだけ通用し、どれだけの威力を発揮したのか、その性能に関するデータが共有される可能性を示唆している。 ロシアのウクライナ軍事侵攻を機に深まったロシアと北朝鮮の蜜月は、当面続くだろう。ロシアは北朝鮮からの武器輸入を続け、北朝鮮はロシアから兵器生産に必要な装備、資材、技術支援などを得て兵器の現代化を図ると見られる。北朝鮮製武器の性能向上はロシアにとっても好都合であり、北朝鮮にとってはロシア以外の国への武器セールス拡大にもつながる。双方の利害が一致する限り、露朝関係は深まり続けるだろう。 北朝鮮の国防5カ年計画で超大型核弾頭生産や原子力潜水艦の保有を掲げている。これらの開発に必要な先端技術をロシアが提供する可能性は低いとの見方が大勢だが、部分的な技術提供であっても北朝鮮が独自に技術を獲得するリスクが懸念される。 今回のプーチン氏訪朝は露朝関係をワンランク引き上げるものであり、北朝鮮の日米韓に対する安全保障戦略を政治的にも軍事技術的にも補強することになる。それはつまり、強力な核・弾道ミサイルを次々に開発して敵対国に突き付け、譲歩を迫るという北朝鮮の旧来の恫喝外交に力を与えるものといえよう。露朝蜜月に強い危機感を持って対処すべきだろう。 【執筆:フジテレビ客員解説委員 甲南女子大学准教授 鴨下ひろみ】
鴨下ひろみ