掲げ続ける伝統の「一致団結」が引き寄せた8年ぶりの全国切符!正智深谷は浦和学院にウノゼロで競り勝って堂々の埼玉制覇!
[11.17 選手権埼玉県予選決勝 正智深谷高 1-0 浦和学院高 埼スタ] みんなで走って、みんなで攻めて、みんなで守る。チャレンジャー精神を忘れず、受けて立つようなこともなく、真摯に目の前のボールを追い掛ける。埼スタの綺麗な芝生の上でも、彼らが掲げ続けている『一致団結』のマインドは、赤と緑に染まったスタンドも巻き込んで存分に発揮されていた。 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 「監督は『一致団結』というところをずっと言っているんですけど、試合中もみんなで声を掛け合うことで、ボールを追う姿勢も出てきますし、ベンチからも声が聞こえてくることで、試合に入り込んでいても緊張がほぐれる感じもありますし、やっぱりみんなが一致団結しているからこそ、今日の試合も勝てたのかなと思います」(正智深谷高・吉田匠吾) 4試合連続の1点差勝利で堂々の埼玉制覇!第103回全国高校サッカー選手権埼玉県予選決勝が17日、埼玉スタジアム2002で行われ、8年ぶりの全国を目指す正智深谷高と初の全国出場に挑む浦和学院高が激突した一戦は、前半18分にDF佐藤飛友(3年)が挙げた先制点を守り切り、正智深谷が1-0で勝利。4回目の全国出場を決めている。 お互いがファーストチャンスに滲ませた勝利への意欲。前半開始40秒は正智深谷。MF近藤七音(3年)のパスを受けたFW中島亜漣(3年)が狙ったミドルは、枠の左へ外れたものの好トライ。3分は浦和学院。左からMF坂間真翔(3年)が蹴り込んだCKから、こぼれをDF秋澤聖(3年)が叩いたシュートはDFにブロックされるも、セットプレーから好機を創出する。 3バックのDF御武内龍吾(3年)、DF上村龍生(3年)、秋澤とGK岡本悠汰(3年)に加え、ドイスボランチのMF二階堂拓人(3年)とMF平瀬優真(3年)のどちらかが低い位置まで下りて、丁寧なビルドアップを続ける浦和学院は15分にチャンス。左サイドでボールを持ったFW佐藤大心(3年)のスルーパスにFW橋本秀太(3年)が走り込むも、ここは飛び出した正智深谷GK森穂貴(3年)が果敢にキャッチ。先制には至らない。 一方の正智深谷は17分に決定機。MF赤川空音(3年)を起点に近藤が左へラストパス。MF小西聖七(3年)のシュートは岡本のファインセーブに阻まれたものの、その一連で獲得した左CK。レフティのDF鹿倉颯太(3年)が鋭いボールを蹴り入れると、こぼれに反応した佐藤飛友のシュートはDFに当たりながらもゴールネットへ到達する。「自分は点を獲る選手ではないので、何をしようか考えていなかったんですけど、とりあえず応援してくれた応援団の方に行きました」と笑ったセンターバックの先制弾。前半はそのまま正智深谷が1点をリードして、ハーフタイムへ折り返す。 後半も大きな構図は変わらず、浦和学院が後方でボールを持つ時間が続く中で、「行くところと行かないところをはっきりさせるのと、横ズレ、縦ズレのスライドのところをしっかりみんなで確認しました」とキャプテンのMF大和田悠(3年)も話した正智深谷はミドルゾーンで構えながら、縦に差し込まれたボールには積極的にプレス。吉田と大和田のドイスボランチと近藤の中盤センターの連動性も高く、長いボールには佐藤飛友とDF岸田永遠(3年)がきっちり対応。「彼らが状況を考えて、主体的によくやってくれたと思います」と小島時和監督も口にしたような安定した守備を継続する。 1点を追い掛ける浦和学院は後半11分にビッグチャンス。右サイドの高い位置まで運んだDF小柳快颯(3年)のパスから、MF平昭一哉(2年)はピンポイントクロス。中央で競り勝った佐藤大心のヘディングは枠を捉えるも、森が丁寧にキャッチ。24分にも坂間の左CKに橋本が高い打点で競り勝ったが、ボールは枠外へ。「ビルドアップの面も含めて、積み上げてきたことをきちんとピッチ内で表現してくれて、攻撃的にやれたと思います」とは川上耕平監督。スタイルを貫きながら、同点への道筋を探っていく。 31分は正智深谷に追加点機。途中出場のMF白岩龍(3年)、近藤とボールは回り、大和田が打ち切ったミドルはわずかにゴール左へ。ここは得点に至らなかったものの、34分には一気に3枚代えを敢行してゲームクローズに着手。右のDF外山達也(3年)、鹿山からバトンを受け取った左のDF小高寧桜(3年)の両サイドバックも組み込んだ4バックを軸に、ゴールへ鍵を掛け続ける。 浦和学院も粘る。35分。坂間の左CKから、こぼれを小柳が叩いたボレーはゴール右へ。40+1分。左サイドを仕掛け続けた佐藤大心がここも時間を作り、坂間のクロスを右から小柳が頭で折り返すも、森が慎重にキャッチ。「ちょっと最後のところは余裕がなかったですね」(川上監督)。惜しいシーンは迎えながらも1点が遠い。 「準決勝をゼロで抑えた時に、『この大会は点を獲られる気がしないな』と思っていましたし、みんな気持ちも入っていたので、『1点入ったら守り切れる!』と思っていました」(佐藤飛友)。3分のアディショナルタイムが過ぎ去ると、主審はタイムアップのホイッスルを吹き鳴らす。 「やっぱり相手もこのままじゃという形で、押し込まれるシーンが多かった中でよく凌いでくれました。まさに“ウチらしさ”でしたよね。この勝利は我々スタッフもそうですし、スタンドのみんなもそうだと思いますし、掲げている一致団結の証じゃないかなと思います」(小島監督)。正智深谷が8年ぶり4回目となる冬の全国切符を、堂々と勝ち獲る結果となった。 「正智の方が上だろうと受けて立つとロクな試合はないですし、『とにかく君たちはチャレンジャーだぞ』ということは、常に言ってきました。『受けて立ったら絶対に勝てないし、受けて立つような力は君たちにないから、ちゃんと自分たちの力を発揮しろ』と言い続けてきたので、それを真摯に受け止めて、信じてやってくれたからだと思います」。小島監督はチームが久々に埼玉の頂点に立った理由をこう話している。 3回戦から決勝までは、実に4試合続けて1点差での勝利。「疲れますよ、スタッフもみんなクタクタです」と笑った指揮官は、「(オナイウ)阿道や梶谷(政仁)みたいなエースが不在なので、もうみんなで工夫して、みんなで点を獲ることをやってきていて、苦労はしているんですけど、その中でやりくりしながら結果を残しているのは非常に良い材料ですよね」と言葉を続ける。 キャプテンの大和田もチームが纏い始めてきた勝負強さに、はっきりとした手ごたえを感じているという。「今日は前半で1点獲れたので、相手が後ろでやってくるなら、そこまで行かずにブロックを組んで、『1-0でもいいから勝ちを獲りに行こう』という感じでした。僕たちは3回戦から全部1点差ゲームを勝ってきたので、『1点差でも自分たちは勝てる』という自信をみんなが持ってやっていると思います」。 この決勝で叩き出したゴールが3年間の公式戦でも2点目だったと明かした佐藤も、チームが掲げてきた伝統のキーワードを口にする。「メンバーに入った30人が頑張るのはもちろんですけど、やっぱり正智が掲げている『一致団結』ということができなければ、このチームは勝っていけないと思うので、今日も全校応援でしたし、スタンドのみんなも合わせて一致団結した結果が、今日のゴールや勝利に繋がったと思います」。試合を重ねるごとにより浸透したのは『一致団結』のマインド。これが整った時の正智深谷は、やはり強い。 新井晴樹(水戸)や梶谷政仁(秋田)、オナイウ情滋(仙台)らを擁して、全国8強まで勝ち上がった95回大会以来、8年ぶりとなる冬の全国。まだ小学生だった当時の躍進をテレビで見ていたという大和田は、目指すべきターゲットについて力強く言い切った。 「僕たちは全国の舞台をまったく知らない中でやってきたので、まずはその経験のあるコーチたちの指導に感謝したいですし、8年ぶりということはもうチャレンジャーとして行く中でも、同じ埼玉の昌平が夏のインターハイでは全国を獲っているので、僕たちも全国制覇を目指して頑張っていきたいです」。 明確に狙うのは埼玉県勢として43年ぶりとなる全国の頂。赤と緑の旋風を晴れ舞台でも巻き起こすべく、正智深谷が謙虚に挑む大いなるチャレンジは、ここからがより面白い。 (取材・文 土屋雅史)