とれたて鮮魚をそのまま刺し身で食べるなら、アニサキス食中毒に気をつけて 予防には十分な加熱か適切な冷凍を いきいき人生の処方箋
この時期の保健所や産業医からのお知らせには、毎年のように食中毒予防の注意喚起が掲載されます。梅雨時の6月は湿度や気温が高く、37~40度の温度を好む細菌が食材や食品の中で繁殖しやすくなり、食中毒が増えるからです。 【写真】猫の写真使ったアニサキスへの注意呼びかけるツイートが話題 ところが、6月に最も多い食中毒の原因は、細菌ではありません。厚生労働省がまとめた食中毒発生状況(平成29年~令和3年)を整理した資料によると、6月に起きた食中毒の原因で最も多いのはアニサキス。サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカといった魚介類の内臓に寄生する幼虫です。次に細菌の一種であるカンピロバクター、ノロウイルスと続きます。 水揚げから時間がたち魚の鮮度が落ちると、アニサキスは内臓から身に移動。その魚を生食したり加熱不足のまま食べたりすると、食中毒を引き起こすことがあります。人の体内に入ると胃壁にへばりついて激烈な痛みをもたらし、治療法は内視鏡で取り除くしかないという厄介な寄生虫です。 イカの刺し身を食べてアニサキスにやられた例は耳にしますが、すしのチェーン店でイカの握りを食べても同じことはまず起きません。アニサキスは、十分に加熱するかしっかり冷凍すれば死滅します。チェーン店でよく使われる外国産の安価な輸入イカは、きちんと温度管理され冷凍されて運ばれており、その間にアニサキスは死滅しているのです。 一方で、近海でとれた新鮮な魚をそのまま刺し身で提供するような店では、料理人が目で見ながらアニサキスを一つずつ取り除いているので、うっかり残ってしまうことがあり得ます。冷凍品が多く使われているチェーン店でアニサキス食中毒をほとんど聞かない背景には、こういった事情があるのでしょう。 細菌による食中毒は、家庭でも十分に注意することで防止できます。そのためには、生鮮食品は新鮮なものを選び、購入後帰宅までは保冷剤を活用すること。保存は冷蔵なら10度以下、冷凍ならマイナス15度以下を保ち、消費期限を守ります。調理器具や食器は清潔なものを使い、調理済み食品を温め直すときには、75度以上で1分以上を目安に十分に加熱しましょう。 そして何よりも、調理や食事の前には手を洗うこと。衛生意識が向上し、誰もが食品の衛生管理に気を配るようになっても、昔から伝わる簡単な生活習慣こそが食中毒予防の基本です。(東大病院老年病科 医師 亀山祐美)