不安が止まらない強迫症をどう克服する? 自宅でできる治療法ってあるの?
誰でも床の汚れは気になるもの。しかし、汚れを消そうと何時間も床を拭いてしまい疲れ果ててしまうのが強迫症という病気。強迫観念が浮かんだ時に、どう対処すればいいのか。精神科医の野間利昌氏が解説する。 【図】不安の度合いを3つに分類 ※本稿は野間利昌監修『強迫症/強迫性障害をワークで治す本』(大和出版)から抜粋したものです。
手は少しくらい汚れていても大丈夫、と捉える気持ちを
強迫症の治療は行動療法のひとつの技法である曝露反応妨害法という方法を用います。 うつ病でよく用いられる認知療法が認知(ものの見方)に働きかける比重が大きいのに対して、行動療法である曝露反応妨害法は直接行動の修正を行います。行動の修正を積み重ねることにより徐々に認知が修正されていきます。 曝露反応妨害法では、強迫行為を引き起こすような状況に自分自身を直面(曝露)させます。どんなに強い不安が生じても強迫行為を行わず、時間が経過するにつれて不安が弱まっていくことを経験します。これを何度もくり返し不安に慣れていきます。 たとえば「手がすごく汚い(強迫観念)」→「いつまでも手を洗う(強迫行為)」が生じる場合、「手を洗うのをほどほどにする(行動を修正)」→何度もくり返して練習→「手は少しくらい汚れていても気にしなくていいか」というふうに認知が修正されます。 曝露反応妨害法は過去のできごとや深層心理の解明よりも、現在の具体的な問題や症状への対処に焦点を当てます。不安や強迫観念を無くすことが目的ではなく、強迫観念が浮かんでも「別にこんなのどうでもいいか」と思えるようになる、すなわち不安に対する耐性を高めることが目的です。医師は強迫行為や強迫的な思考パターンを変えていく手助けをしますが、行動を変える主役は患者さん自身。この治療では主体性が重要になります。
強迫観念が浮かんだときの不安に「慣れる」ことが大切
強迫症になると、そのことに対して白か黒で区別して、「白を目指す」ようになります。白を目指すと、小さな黒い点やグレーの点があるだけでも気になって仕方なくなり、その点を消そう消そうとして疲れ果ててしまいます。 強迫症を治すうえでいちばん大事な考え方は、白を目指すのをやめて、グレーを目指すことにあると私は考えています。患者さんには白でも黒でもない「グレー」を目指し、グレーを「受け入れる」ことを目標にしてもらいます。 たとえば誰でも床の汚れは気になります。気にするのは普通のことです。しかし、汚れを消そうと何時間も床を拭いてしまい疲れ果ててしまうほどなら病気です。 こうした強迫観念が浮かんだときの不安に「慣れる」ためには、強迫行為をしないでやり過ごすことをたくさん経験する必要があります。「回数をこなす」ことが大事です。 行動療法は、学習やトレーニングと同じです。くり返し行うことで身につきやすくなります。 強迫行為を治すときも、一度や二度強迫行為をやめても不安に慣れることはできません。何度も何度もくり返すことが大切です。そうすると、いつのまにか不安は小さくなります。 また、ひとりで課題にとり組んで成功する人もいますが、客観的に自己を見つめ、一度染みついた行動のクセを変えていくのはなかなか難しいものです。 コツをつかめるようになるまではなるべく頻繁に(できれば毎週)受診し、医師に軌道修正してもらうといいでしょう。